英語を学習するってどういうこと?を様々な観点で考察し、ふと立ち止まって考えてもらうための新感覚コラム。
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- Author:Akihiro Mukai
- 英語学習を科学するための「レアジョブ英会話」データ担当。「人の人生を変える“教育”に、面白さを見出した」エンジニア、ディレクターなどの経験を活かし“人×テクノロジー”による教育の未来創生に邁進している。
英会話の上達にはインプットが欠かせません。
ではインプットという言葉から何が思い浮かぶでしょうか。
単語帳で単語を覚えたり、ラジオでリスニング、英語の文章を読むといったものが思い浮かぶかと思います。イメージとしては以下のような感じでしょうか。
しかしながらインプットは単語帳を見る「だけ」でしょうか、はたまたラジオを聞く「だけ」でしょうか、そして英文を読む「だけ」でしょうか。
もちろんそれもインプットの一部ではありますが、実際はもう少し奥が深そうです。
インプットをアウトプットに変えるステップ
第二言語習得の専門家として知られるSusan M. Gass(1997, 2013)は、第二言語の学習者がインプットをアウトプットに転換できるようになるまでの間には「Noticed Input(気づかされたインプット)」→「Comprehended Input(理解されたインプット)」→「Intake(内在化)」→「Integration(統合)」という4つのプロセスがあるとしています。
※図はアウトプットが及ぼす影響:Swain(1985)のアウトプット仮説も加味しています
0. インプット
定義はされていませんが、定義するとなると「情報源に触れた状態」といったところでしょうか。単語帳を見るであったりラジオを聞く、英字新聞を読むなど様々なものがあります。そしてこれがまさに冒頭に登場した”だけ”の正体です。
この次に出てくるのは「気づかされた(Noticed)」となるので、この時点では「気づいていない(無)」状態です。この状態では記憶にも残らないため「インプットしてるんだけど覚えられない」という事が起こるわけです。
1. 気づかされたインプット(Noticed Input)
インプットに注意が向いている状態で、目や耳から入ってくる情報(例:単語、文法、音など)を短期記憶に保持します。言い換えるならば「覚えようとしている」状態です。
2. 理解されたインプット(Comprehended Input)
保持した情報を意味、形式、機能などに基づきある種の仮説を立てられる状態です。例えばこの単語はこう使えるのではないか、こういった規則があるのではないかなどがそれにあたります。
3. 内在化(Intake)
理解した情報を自身の中間言語(学習者が外国語の習得過程にあるときの言語のこと)へと取り込み、すでに持っている知識と比較・検証する状態です。これが行われるとあいまいではあるものの発話で使う事が可能になります。ここまでくると「思い出す」準備ができてる事でしょう。
4. 統合(Integration)
取り込んだ情報を長期記憶として貯蔵し処理の自動化を図ります。
処理の自動化の具体的な例を挙げると、みなさんご存知「How are you?」に対しての「I’m fine thank you.」です。もはや何も考えずに口から出る状態、それが自動化です。
例の通り統合までできていれば自由に扱える状態にあると言っても良いでしょう。
そしてこれは学習者が習熟すればするほどプロセスをよりスムーズに行うことができるようになります。
発話のステップから考えるインプットーー統合の重要性
さて、インプットからアウトプットまでにはステップがある事がわかりましたが、なぜそのステップを踏まなければならないのか。
Fromkin(1971)やClark & Clark(1977), Levelt(1989), de Bot(1991)など多くの先人が発話までのステップをモデル化しています。その中でも特にLevel(1989)のモデルを見ていくと答えが見えてきます。
1. 概念を形成する
概念というと少し難しいですが、いわゆる「言いたい事がある」状態です。それは対話から生まれる事もありますし、ふと何かを思いつくこともそうですし、あらゆる状況で「言いたい事がある」際にそれを概念の形成ととらえます。
2. 概念を言語化する
「言いたい事」を「言語」に変えるプロセスです。「言語」にするために「語彙」「文法」「音韻」といった知識が必要となります。
3. 言語化した概念を一時的に蓄える
発話はある程度まとまった形になってから次の段階に送られるという事から、ある程度まとまるまでは頭に浮かんだものは一時的に蓄えられる状態です。
フィラー(uhとかah)などが発話の中に多い方は「言いたい事がない」「言いたいことはあるが言語化できない(語彙、文法、音がわからない)」「話がまとまらない」といった事が原因であるのがわかります。
4. 言語化した概念を音声化する
言いたい事があり、言語化し、形がまとまったところで実際の音にします。これが一般的に言われる「発話している状態」です。
5. 自分の発話をモニターする
言語化した概念を音声化しながら、発話している人は同時進行で自分の発話を聞いている(Laver 1977, Kempen and Hoenkamp 1987, Levelt 1989)としています。そのことから、常に自分の発話が正しいのかをモニターし続けているという状態です。
このステップから、なぜ上記のインプット手法をとる必要があるかが見えてきますね。
つまり「概念の形成 = 言いたい事」の後の「言語化」するタイミングで「語彙」「文法」「音韻」を「自由に取り出す=思い出す」必要があるため、きちんと内在化、統合までしておかなければ使えるようにならないという事です。
第二言語習得に則ったステップを考える
では具体的にどうやってインプットを行うとアウトプットに到るまでの効率が良いのでしょうか。
1. 気づき
注意を意図的に向ける、つまり「覚えたい」と思うためにはどうすれば良いかポイントになってきます。
例えば、覚えたいフレーズがあった場合、それを実際に発話して「間違った」場合「もう間違いたくない」として「覚えたい」と思えれば注意が向いています。
また、自分にとって必要なもので注意を引くという事も考えられます。例えばスポーツが好きであったら、覚えたいフレーズや単語をスポーツに結びつけて覚えようとする事も有効でしょう。
2,3. 理解 / 内在化
気づきを促した後、気づいた言語情報がどのような形式でどのような機能を果たすのかを確かにする必要があります。
そのために辞書を引いたり、実際に使われている例を探す事になると思いますが、より理解と内在化を促進するために「文章を自ら作る」「その文章が合っているか確かめる」などの能動的な活動が有効です。
4. 統合
統合は長期記憶に貯蔵し自動化を図ると紹介しましたが、この自動化を行うためには、頭の中にある対象へのアクセス速度を早くする事が必要になります。そのためには「実際に使う(しかも何度も)」や「まとまった形で覚える(いわゆるフレーズとして覚える)」などが考えられます。
今どの状態かを知る事が大事
闇の中を彷徨うようなインプットは大変ですが、メタ認知といいますか学習対象について今どの段階かを知る事ができればその大変さも少し改善されるのではと思います。
是非こういった先人の知恵を借りながら学習をより効果的、効率的に行えるようにしていきたいと思っております。
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