国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と言えば、Baron Von Ripper-off(ぼったくり男爵)などと呼ばれ、何を言ってもネットで炎上するようになってしまいました。このように、著名人の発言が集中的に批判されることは、珍しくありません。ネット上の炎上(under fire)事件について英語で実際にどのような言い方をしていたのか確認し、批判が的を得たものなのかどうか、自分で考えられるよう、実際の発言を紐解いてみましょう。
あの炎上コメントを英語で読んでみよう
日本のニュースで海外の人のコメントを読んで、「そんなことを言っていたのか」と、そのまま信じ込んでしまってはいないでしょうか。元の発言のごく一部を日本語に翻訳して紹介しているものは、必ずしも話した人の意図をそのまま反映しているとは限りません。日本で炎上した例で、実際はどのような英語が使われていたのか見ていきましょう。
IOCバッハ会長の「残念」発言
東京オリンピックの無観客が決定したとき、IOCのバッハ会長が「残念」と発言したことで、「日本人に対してあまりにも無神経だ」と炎上騒ぎになりました。実際にどのような言い方をしたのか見てみましょう。
We all regret this decision for not having spectators. For the spectators but even more so for the athletes who will not be able to enjoy life, the Olympic atmosphere.
(無観客という決断を、私たち皆残念に思っています。観客にとって、しかしさらにもっと選手たちにとって。選手たちはオリンピックの雰囲気、活気を楽しむことができないでしょう)
実際の動画:(0:20より)
ニュースには「バッハ会長『残念』」という見出しが並び、まるでバッハ会長にとって残念であるかのような印象になりましたが、実際はFor the spectators but even more so for the athletes(観客にとって、しかしさらにもっと選手たちにとって)と、「選手たちにとって残念な決断となった」と言っていたわけです。
ローマ教皇の「難民受け入れ訴え」発言
ローマ教皇が2019年に来日した際、東京の教会で「日本は難民を受け入れて」という発言をしたとして、「まずバチカンが受け入れるべきだ」とTwitterなどで非難の的となりました。そのときに教皇が話していたのは、こういうことです。
In a special way, I ask you to extend the hand of friendship to those who come here, often after great sufferings, seeking refuge in your country.
(特に、しばしば大変つらい目に遭った後に、この国に避難を求めてやってきた人たちに、友情の手を差し伸べてくれるようお願いします)
実際の動画:(58:25より)
*教皇が使っていたのはスペイン語で、英語の同時通訳がついています。
これは青年の集まりに語りかける会で、互いを思いやる心の大切さを説いたあと、会場に難民(refugee)の青年たちもいたことから、「難民にも友情の手を差し伸べて」と話したところ、ニュースの見出しは「日本に難民の受け入れを訴えた」となりました。
教皇の真意はわかりませんが、約30分に及ぶ説教の中でこの部分だけクローズアップされてニュースの見出しを飾ったことに、少々面食らったかもしれません。
スポーツ選手たちの炎上事件を英語で振り返る
最近は日本のスポーツ選手が世界的な活躍を見せる場面が増え、その一挙一動に注目が集まるようになりました。彼ら・彼女らを取り巻く話題を英語で確認してみると、日本のニュースからだけではわからないことが見えてくるかもしれません。
「大谷は英語を話すべきだ」発言
アメリカのプロ野球MLBで大活躍する大谷翔平選手。アメリカでも、大谷選手に関する報道が大変な盛り上がりを見せています。ところが、スポーツ放送局ESPNのアナリストStephen A. Smith(スティーブン・A・スミス)が、番組で「大谷は英語を話すべきだ」と発言したことから、人種差別論争まで巻き起こってしまいました。実際には、このように言っています。
I don’t think it helps that the number one face is a dude that needs an interpreter so you can understand what the hell he’s saying in this country.
(MLBのナンバーワンの顔が、いったい何を言っているかわかってもらうために通訳を必要とするやつだなんて、MLBのためにならない、この国では)
実際の動画:(00:13より)
dudeは「(~な)やつ」、what the hellは「いったい全体」といった意味で、このあたりは問題ないのですが、in this country(この国で)と言っていることで「大谷はthis country(この国)の人ではない、よそ者である」と強調してしまっている感があります。
このアナリストは後日自身のTwitterで”insensitive and regrettable”(無神経で後悔している)と謝罪することになりました。皆さんも例えば“in this company”(この会社では)と言うと、相手を完全によそ者扱いすることになると覚えておいてください。
大坂なおみ選手の「うつ」告白
2021年の全仏オープンで記者会見を拒否して批判され、その後自身のTwitterで「うつ」であることを告白した、テニスの大坂なおみ選手。自身の病気を告白した勇気を称えるコメントが相次ぐ一方、「『うつ』ならそもそも試合に出られないのでは」という批判も起こりました。大坂選手のTwitterの実際の投稿を見てみましょう。
The truth is that I have suffered long bouts of depression since the US Open in 2018 and I have had a really hard time coping with that.
(本当のところ、2018年の全米オープンから長いこと「うつ」に悩まされていて、それに対処するのに本当に大変な思いをしてきました)
実際の投稿:
— NaomiOsaka大坂なおみ (@naomiosaka) May 31, 2021
boutは「病気などで一定期間その状態にあること」で、long bouts of~で「長いこと~を患っている」といった意味になります。depressionは「ひどく落ち込んでいる状態」または「うつ病」を指します。投稿にはこのほかにもanxiety(不安)やstressful(ストレスがたまる)といった表現が含まれ、自分がいかに精神的に不安定な状況にあるか、率直に語っているように感じられます。
著名人の発言をどう思うかは自分次第ですが、日本のニュースの2、3行だけを見て、「なんてひどい話だ」と思い込んでしまってはいないでしょうか。海外の人の気になる発言を見つけたら、SNSに自分の考えを投稿する前に、ぜひ一度、英語でどのように発言しているかを確認してみてください。
ちなみに、「発言」は英語でremarkと言います。もし英語で最近のニュースについて話す機会があれば、What do you think of Mr. Bach’s remark?(バッハ氏の発言をどう思いますか?)、Have you heard of the remark against Ohtani?(大谷に対する発言を聞きましたか?)のように言うと、相手の考えを聞くことができます。
逆にWhat about you?(あなたはどうですか?)のように聞かれたら、I don’t think it’s appropriate.(適切ではないと思います)、It is misinterpreted.(誤って解釈されています)のように、自分の意見を言ってみましょう。そのときのために、ぜひその発言を英語で聞いて、自分の考えを英語でまとめてみるようにしてください。
まとめ
海外の人の英語の発言を聞いたり読んだりすると、見慣れない言い方や独特のくだけた表現に戸惑うことがあるかもしれません。生の英語は、テキスト通りにはならないもの。言いよどんだり、突然挿入があったりと、想定外のことが起こります。
そこで活用してほしいのが、著名人の生の英語スピーチを収めた教材。私の著書では、台湾のオードリー・タン大臣やイギリスのボリス・ジョンソン首相らが世界の最新の話題について語ったスピーチを集めています。英語の発言に慣れ、時事問題の語彙を増やすのに役立ててください。
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