非英語圏であるインドと日本は環境が同じであるにも関わらず、インドの方が日本より英語が話せる人が多いイメージではありませんか?
その理由は「インド独特の英語学習法」にあるようです。インド式英語学習法では、日本人がこれまでしてきた丸暗記や単語の繰り返し練習などをすることなく、伝わる英語が話せるようにそう。もちろんデメリットもありますが、「たった3つの動詞」と「2つの前置詞」で英語が話し始められるなど、ハードルが低く英語に苦手意識がある人でも始めやすい学習法です。そこで今回は、インド式英語学習法について詳しく解説します。
世界に存在するいろいろな英語
インド式英語学習法についての解説なのに、「どうして世界に存在するいろいろな英語についてなの?」と疑問に感じるかもしれませんね。けれども世界に存在するいろいろな英語を知ることで、英語を話すことに対する苦手意識が払拭できるので簡単に見ていきます。
インド英語は世界に存在する英語の1つ
英語が第1言語の国としてまず思い浮かぶのは、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどでしょう。イギリスのシェフィールド大学によると、英語を母国語とする国は、これらの国を含む19カ国だそうです。また、英語を公用語とする国は、フィリピン、カナダ、アイルランド、南アフリカ、シンガポールなど多く存在します。
それぞれの国で話される英語はかなり異なり、「オーストラリアの英語はアクセントが強くて分かりにくい」「シンガポールの英語はシングリッシュだ」など、さまざまな意見が存在します。アメリカ人は「自国の英語が正しい」と言わんばかりに動画などで他人の英語を評価していますが、アメリカでも地域によってアクセントは大きく異なります。
つまり、英語圏の国の中でもアクセントや使われる単語・表現などが異なるということ。ときには英語ネイティブ同士でもコミュニケーションがスムーズにとれない場合があります。
インド人の英語を聞いたことがある人は、「彼らの英語はアクセントが強くて聞きとりづらい」と感じたかもしれませんが、インド英語も世界に存在する英語の1つにすぎません。
世界に多く存在するいろいろな英語は、「どれが正しくてどれが間違っている」と優劣をつけるものではなく、ただ単に違っているだけです。江戸時代の日本語を現代人が話さないように、言語は年月の流れとともに変わっていくので、それぞれの国の英語が違っている背景には歴史的・文化的な影響があると考えられます。
英語話者の中でノンネイティブはネイティブの数倍
調査・分析・データの可視化を行う『Statistic & Data』は2022年に世界で最も話された言語は「英語」で、その人数は14億人以上になると予想。そのうち英語ネイティブはわずか3億6,990万人で、ノンネイティブの英語話者の方が数倍多いことが分かります。
これらのノンネイティブの多くがビジネス目的で英語を話し、「自分の伝えたいことを自分の言葉で伝える」ことでコミュニケーションをとっています。つまり、ノンネイティブはネイティブのように話すことを学習当初から目指す必要がないということ。もちろん上達してきたらネイティブ英語に近づける努力も必要ですが、最初から高みを目指さず、「自分の伝えたいことを自分の言葉で伝える」ことにフォーカスすることが重要です。
『Statistic & Data』のYouTubeチャンネルでは、1900から2022年までの「世界で最も話されている言語」の移り変わりが見られるので、興味のある人は見てみてください。
出典:The most Spoken Languages in the World – 1900/2022(YouTube),The Most Spoken Languages 2022
インド式英語とは
世界にはいろいろな英語が存在し、インド英語もその中の1つだと分かったところで、インド式英語について見ていきます。インド式英語は世界に多くいるノンネイティブと同様に、「自分の伝えたいことを自分の言葉で伝える」ことを重視しています。
インド式英語の特徴
ノンネイティブでありながらインドで英語話者が増えた要因に、ビジネスの場で英語を使う必要があったと言われています。インド式英語には独特な特徴があるので見ていきましょう。
発音を重視しない
インド式英語の大きな特徴は「発音を重視しない」こと。RとLの区別などを深く考えません。つまり、英語らしい発音でなくても、どんどん伝えたいことを伝えるということ。これを「OK」とするのには多少抵抗がありますが、日本人のように考えすぎて英語が出てこないと「考えがない」と受け取られてしまうので、どんどん話せるのはポジティブな要素ではないでしょうか。
外国人が「ワタ~シ ニホ~ンゴ スコ~シ ワカ~ル アル」のように日本語を話すのを思い浮かべると、発音を重視しないで英語を話すのもイメージできるかもしれません。要するに、「伝わればいい」という考え方なのです。
知っている単語・文法だけを使う
冒頭で述べたように、インド式英語では「3つの動詞」と「2つの前置詞」のみでいろいろなことを英語で表現します。さらに、イディオム(慣用表現)も使いません。つまり、知っているシンプルな単語と文法だけを使うということ。
例えば、「get bent out of shape(腹を立てる)」という英語の慣用句を知らなくても、「angry(怒る)」を使えば自分の伝えたいことが伝えられるという感じです。完全に「意思疎通」を重視した特徴と言えるでしょう。
インド式英語学習に向いている人
インド式英語は独特な特徴があるので、万人に効果がある学習法ではありません。ここでは、どんな人に向いているのか見ていきます。
英語初心者
インド式英語は3つの動詞と2つの前置詞を使って話し始めるため、英語をなかなか文章で話せない初心者に最適な学習法です。英語を話したいけどその1歩を踏み出せない人は、ぜひチャレンジしてみてください!自分の伝えたいことが伝えられるようになりなれば、英語学習が楽しくなるでしょう。
英語の文法が苦手な人
英語の文法が苦手な人にもインド式英語学習法はおすすめです。難しい文法を使わずに3つの動詞と動詞に合った文のパターンで表現するので、それだけを覚えて置き換えればいいだけ。シンプルな表現で伝えたいことが伝えられるようになります。
英語を話すのに抵抗がある人
「英語を話すのが怖い」「間違えたら恥ずかしい」という人も少なからずいるでしょう。インド式英語では、間違えても気にせず「堂々と話す」ことが求められます。「ノンネイティブなんだから間違えるの当然」というくらいの気持ちで話すということ。そのように話しているうちに、「話せる」という自信も持てるようになるでしょう。
インド式英語のメリット
インド式英語には「発音を重視しない」「知っている単語・文法だけを使う」という特徴があり、これらがインド式学習法のメリットになることは言うまでもありません。知っている単語と文法で発音を気にすることなく話し、新たに単語や慣用句を覚える必要もないので、ハードルはグッと低くなります。当然のことながら、限られた単語で表現するので、シンプルで始めやすいこともメリットになるでしょう。これらのメリットをまとめると以下の通りです。
<メリット>
・発音を気にする必要がない
・新しい単語や慣用句を覚える必要がない
・シンプルなので始めやすい
インド式英語のデメリット
英語初心者や英語を話すことに苦手意識がある人には、インド式英語学習法は「話し始めるきっかけ」としておすすめできますが、やはりデメリットもあります。
<デメリット>
・英語圏の国での会話には向かない
・インド式英語学習だけでは上達が望めない
大きなデメリットは上記の2つです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
英語圏の国での会話には向かない
お互いにノンネイティブの場合は使う単語や文法が限られているので、コミュニケーションは比較的楽にとれますが、相手がネイティブとなると状況は一変します。
なぜならネイティブは慣用句や未知の単語をたくさん使うため、話の内容が理解できなくなるから。要するに、3つの動詞と2つの前置詞ではコミュニケーションをとるのに限界があるということです。
また音がリンクしたり発音されない音があったりと、ネイティブ特有の発音を聞きとれないこともコミュニケーションを妨げるでしょう。さらに言えば、発音を重視しない外国人の英語に慣れていないネイティブには、クセの強い外国人の英語は聞きとってもらえない可能性もあります。ですからインド式英語は英語圏の国での会話には向いていないのです。
インド式英語学習だけでは上達が望めない
インド式英語学習法は「英語を話し始めるきっかけ」としては日本人に向いていますが、それだけでは限界があるため、一定の水準までは英語が話せるようになっても、それ以上の上達はなかなか望めません。
ですからインド式英語学習法で英語が話せる自信をつけた後は、新しい単語やフレーズを覚えていく必要があります。もちろん、発音も修正する必要があるでしょう。
インド式英語学習法とは
では、インド式英語学習の実践方法を見ていきます。
ステップ1:3つの動詞で話す
すでに述べたように、3つの動詞で表現します。3つの動詞は「sound」「find」「give」です。「自分の伝えたいことを表現する」ために使う英単語として、この3つを思い浮かべた人はあまりいないのではないでしょうか。さっそく、詳しく見ていきましょう。
sound
soundは「音を出す」「聞こえる」などの意味がりますが、インド式英語では「X sound Y」でという形で「X = Y」、つまり「XはYのようだ」という意味で使います。「~のようだ」の他、「~そうだ」「~みたいだ」「~っぽい」「~な感じだ」というニュアンスをカバーできるそうです。
He sounds excited. (彼はワクワクしている感じだ) He = excited
My client sounds angry. (クライアントは怒っているようだ) My client = angry
Her new job sounds easy. (彼女の新しい仕事は楽なようだ) her new job = easy
これらの文を作る際には、日本語で伝えたい文を考え、それを日本語とsoundの混合文に置き変え、最終的に英語にするというステップを踏むと、文が作れない初心者でも簡単に表現できます。
日本語:その話は役に立ちそうだ
↓
混合文:その話 sounds 役に立つ
↓
英語:That story sounds useful.
find
findは「見つける」という意味でよく使われますが、「分かる」という意味もあります。インド式英語では「人 find X Y」の形で「人はX = Yであると分かる」、つまり「人はXがYであると分かる」という意味で使います。「~と分かる」の他、「~と気づく」「~と知る」「~と思う」というニュアンスでもカバー。soundの文より少し複雑になりますね。
You find him excited. (あなたは彼がワクワクしていると思うんだね) him = excited
The boss finds my client angry. (上司は私のクライアントが怒っていると気づくんだ) my client = angry
I find her new job easy. (私は彼女の新しい仕事が楽だと分かるよ) her new job = easy
findも同様に「日本語 → 混合文 → 英語」の順に考えると文が作りやすいでしょう。
日本語:彼はその話が真実ではないと気づく
↓
混合文:彼 finds その話 真実ではない
↓
英語:He finds that story untrue.
give
giveは「与える」という意味で、「人/物 give 人 人」の形で「人/物は人に物を与える」という意味で使います。ここまで現在形だけで解説しましたが、もちろん過去形で表現することも可能です。
He gives his wife a necklace. (彼は奥さんにネックレスをあげる)
This song gives me energy. (この曲は私に元気をくれる)
This movie gave us new ideas. (この映画は私たちに新しいアイディアを与えた)
giveも同じように「日本語 → 混合文 → 英語」というステップを踏むと文が作りやすいですよ。
日本語:あなたは彼にその興味深い話を与えた(= 興味深い話をした)
↓
混合文:あなた gave 彼 その興味深い話
↓
英語:You gave him that interesting story.
ステップ2:2つの前置詞を使って情報を加える
ここまで示してきた文はかなりシンプルです。表現できなかった情報は、2つの前置詞「at」と「with」で補います。その際、文末に「前置詞 + 名詞」の形で情報を加えましょう。インド式英語では、この2つの前置詞でおおよそ意味は通じるとしています。
例えば、on the desk(机の上に)、under the desk(机の下に)、by the desk(机のそばに)のように細かく表現できますが、インド式英語ではat the desk(机のところに)ですべてを補うということ。いくつもある前置詞から、どれを使えばいいのかと迷うことなく文が作れます。
上記で示した「あなたは彼にその話を与えた」を例に解説します。この文に「ユーモアをまじえて」という情報を加えたいとしましょう。この場合、前置詞がatという可能性は低いので、withを選びます。
日本語:あなたはユーモアをまじえて彼にその興味深い話をした
↓
混合文:あなた gave 彼 その興味深い話 with ユーモア
↓
英語:You gave him that interesting story with humor.
完璧な英文ではありませんが、伝えたいことを伝えられて相手にも理解してもらえる文になります。
My client sounds angry at me. (クライアントは私に対して怒っているようだ)
He gives his wife a necklace at her birthday party. (彼は奥さんの誕生日パーティーでネックレスをあげる)
I find her new job easy with her story. (私は彼女の話で彼女の新しい仕事が楽だと分かるよ)
ステップ3:堂々と話す
すでに述べたように、インド式英語で重要なのは「堂々と話す」こと。つまり、「伝わる話し方をする」ということです。とは言っても、どう話せば伝わるの分からないと思うので、ポイントを詳しく見ていきましょう。
大きな声で話す
声が小さいと「自信がない」「何を言っているのか分からない」と思われてしまうので、大きな声で話します。声が大きければ相手は聞きとりやすくなり、自分の「伝えたい」という気持ちも伝わるので、相手も「聞こう」という気持ちになるはず。
また、尻切れトンボのように声がだんだん小さくなるのもNG。最後まで、しっかり大きな声で伝えましょう。
アイコンタクトをとる
アイコンタクトとは、お互いに視線を交わすことです。要するに、相手の目を見て話すということ。英語を話すときだけでなく、日本語でも同じですよね。目や表情から伝わる情報は意外と多いので、しっかりアイコンタクトをとりましょう。
また、相手の話に相づちをうつことも重要です。相づちは「あなたの話を聞いていますよ」というサインなので、忘れないようにしましょう。ただし、相手の話を理解できないときに、分かったようなフリをして相づちをうつのはNG。理解できないときには、きちんと確認したり聞き返したりするようにしましょう。
出典:安田 正 著.英語は「インド式」で学べ!.ダイヤモンド社.2013年.296P
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