ライターの熊谷(https://twitter.com/kumagaimanato)です。さて今回は、ビジネスシーンにおいて外国人と対等に交渉する、さらには外国人をマネジメントする際の考え方について、三井物産の真野IR部長にお話を伺いました。
経歴
氏名:真野 雄司 (まの ゆうじ)
1986 年 4 月 三井物産株式会社入社
2014 年 7 月 MITSUI & CO.(U.S.A.),INC.S.V.P.& Chief Administrative Officer
2016 年 4 月 IR部長就任
外国人との交渉や外国人と一緒に働くからと言って、気をつけるべきことは特に無い
商社に入ってから、海外との折衝、海外赴任、アメリカ人の部下を100人近く持ってのマネジメント、と色々経験してきました。現在は、IR部長として、海外投資家を含めた資本市場参加者が、当社株式への投資判断を形成する上で重要となる会社情報の発信等をグローバルに行っています。
意外かもしれませんが、外国人と交渉をするから、外国人をマネジメントするから、と言って何か気をつけるべきことは、本質的には何も無いと思っています。
英語が特に得意な訳ではない
もう海外にも何年も駐在していますし、この仕事を何十年もやっていますので、勿論英語は話せますが、特に得意な訳ではありません。正直に申し上げると、流暢に話せる方ではないと思っています。
もともと学生の時から、海外に対する漠然とした憧れがあり、それで総合商社に入社しました。
初めて米国出張に行ったのは、3年目の1988年。とにかく憧れのアメリカに来た、ということに胸が躍ったのを思い出します。空港から都市に至るまでの道まで、鮮明に覚えています。とにかく嬉しかった。
ただ、交渉の方は苦労しましたね。英語って難しい、と痛感しました。
初の海外赴任で勝ち取った信頼
少し月日は流れ、最初に海外に赴任したのは、入社8年目の1993年です。5年間ほどニューヨークで仕事をしました。
当初英語は余り話せませんでした。ニューヨーク初日にファストフード店に入って店員に「To stay or to go?(注:「店内ですか、持ち帰りですか」)」と聞かれ、何も答えられなかったことを覚えています。相手の表情から、「何か聞かれているな」という感覚はあったのですが、それが何なのか全く分からない。そんな感じで海外生活がスタートしました。
アメリカ人というと、合理的でドライなイメージがありました。しかし、実際にはそんなことはなかった。
むしろ逆です。「We are Mitsui!」と言ってみても、それで彼らと商売が出来るということは、全くない。
彼らのマインドは、「We want to do business with “YOU”, not with your company.」でした。会社と会社がビジネスをするのではなくて、担当者と担当者がビジネスをする。担当者が替われば、会社間のビジネスも大きく変わって当たり前。ウェットです。意外でした。
だから、会社がどうとか提示する条件がどうとかの前に、一人の人間として、“人として” 相手に信頼してもらうことの方が、はるかに重要でした。「信頼」というと堅苦しいですが、とにかく好きになってもらう、友達になるという、それだけです。
その為に、公私問わずとにかく取引先と触れ合うようにしました。アウティングと言ってオフィスを離れたアクティビティにも積極的に参加し、泊りがけでゴルフやスキーをしたり、スノーモービルで国立公園中をグルグル回ったりしました。そうすると、お客さんとの関係はかなり築ける。
ではそうやって関係を築いている間の僕の英語力はどうだったのか。
ビジネスシーンにおける会話は使う表現も限られているので問題なくこなせていたんですが、ビジネスを離れて雑談をしている時などは、分からないこともよくありましたよ(笑)。
アメリカ人の普段のコミュニケーションは余りにも早口で、スラングも多く、とにかく、聞き取るのが難しい。ビジネス英会話はできるようになっても、雑談でのつらさは感じました。
それでも、「自分は今、ちゃんとは理解出来ていない」ということを確り伝えて、流暢な英語でなくても良いから自分のことを精一杯表現していると、皆、好意を持ってくれたんです。結局、何も身構えることはありませんでした。
逆の場合を想像すると分かりやすいかもしれません。日本語を話せないアメリカ人があなたの職場に来て、「喋れないし理解していないけどそれらしい振る舞いをする人」と、「必死にたどたどしい日本語で自分の考えを伝えてくる人」、どっちが好きか。どっちに仕事を任せたいと思うか。
アメリカ人部下を100人近く従えてのマネジメントでの気づき
そこからさらに20年近い月日が流れます。2014年に再びアメリカのニューヨーク店に赴任し、そこでChief Administrative Officerというポジションにつきました。部下は100人くらい。そのほとんどが、アメリカ人です。
その中には、どんなボスが来るんだろうと興味津々な人、日本人のボスは嫌だと思っている人、どんなボスでも同じだろと諦めている人、色々でした。
アメリカ人を多く従えてマネージャーをした経験から、本当に大切だなと感じたことをあげるとすれば、「部下の前でかっこつけない」ことと、「相手に関心をもつ」ということ。
「部下の前でかっこつけない」、というのは意外と難しいものです。やはり、自分のことを全く知らないアメリカ人を前にして、まずは自分の実績や能力をアピールし相手からのリスペクトを得たいと思ってしまいます。
でも、部下というのは上司が思う以上に深く鋭く上司のことを見ていますから、自分で自分の能力を説明する行為は意味がありません。意味がないどころか多くの場合は、逆効果です。
あと、「相手に関心を持つ」、というのは文字通り、一人ひとり部下のことを気にするということです。彼は何を考えて仕事をしているのか、どういう家族を持っているのか、将来はどうしたいのか、一人ひとりを気にかける。
人間というのは相手が気にしているということを知ると逆にその相手に興味を持つものなので、まずはベラベラと自分のことを語る前に、上司が部下のことを気にすることが重要です。それが、関係構築のスタート地点。
と、結果的に色々とやってみてこの2つは本当に大切と感じたんですが、これはよく考えてみると、「日本人相手でも全く同じように大切なこと」なんです。
日本人をマネジメントする時に大切なことは、と聞かれれば今と全く同じ話をします。
日本人が相手でも、勿論部下を前にして格好つける意味はないですし、日本人が相手でも、やはり相手に対して関心を持つことから人間関係は始まる。
外国人だからと言って急に本質が変わる、ということはありません。
外国人と交渉をする時、外国人と一緒に働く時に、自分の考えが上手く伝えられないと思うわけ
2016年の現在はIR部長として海外の投資家に三井物産という会社の価値を説明して回る仕事をしています。「総合商社」という形態の組織は日本にしか存在しませんから、会社のことを説明するのは大変です。
自分自身、英語を使って外国人と話していて、「自分の考えがうまく伝えられていないな」という時は、今でもあります。なんだか上手く交渉が進められないな、と感じることがある。
でも、そういう時は、よくよく後で振り返って詳細に分析してみると英語力が云々ではなくて、そもそも自分の頭の中が整理されていなかったり、交渉の進め方を明確に出来ていなかったりという、英語とは関係無い要因によることが殆どです。
ビジネスシーンにおける英語力というのは実は極端に高いレベルは必要なく、TOEICにして700点くらいあれば十分ではないかと思っています。交渉の進め方をしっかり決めて、正しく話せば、どんな交渉だって出来る。
英語が上手く話せなかったのに信頼が獲得できた時の経験や、英語が話せるようになっても失敗してしまう経験を踏まえてたどり着いた結論は、結局「国籍の違い」や「言語の違い」は、さほど重要ではない、ということです。
「英語力」や「日本と外国の違い」に、過度に反応する必要は無い
繰り返し、日本人も外国人も本質的には同じだ、と言ってきましたが、むしろ、「本質的に気をつけるべきことは特に無い」という事実自体は、多くの日本のビジネスマンにとって盲点であり、重要なことなのかもしれません。
実際、「外国人は日本人とは全く違う生き物なのではないか、彼らと対等にやりあうには何か色々と特殊なことをしないといけないのではないか」と身構えている人が大半だと思います。
日本人のジャパングリッシュがどうとか、日本と海外の文化の違いがどうとか、日本国内で色々と変にクローズアップされ過ぎなのかもしれません。日本人をやたらと警戒させたり、日本人の国際性の無さを指摘して日本人の不安を煽ったりしている気がします。日本人の中に変な「外国像」が出来上がって自信喪失に繋がったら、悪循環です。
外国人との関係を構築するに当たって、うまくいかないと感じた時、安易に「英語力」や「国籍」のせいにしてはいけません。恐らく、ダメなポイントはそこではない。
海外の人間は、想像しているよりもはるかに、「同じ人間」でしかない。
これが、何の知識もバックグラウンドもない状態から総合商社に入り30年間、「英語力」や「外国人との関係構築」について色々と思案してきた僕のたどり着いた、一つの結論です。
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