国際化が急速に進む昨今、ビジネスパーソンにとって、もはや英語は必須スキルとなっています。この流れの中で、学生時代から数年〜数十年と離れていた英語の学習を再開したという社会人の方も多いはず。
では、そんな社会人の英語力の実態はどうなっているのでしょうか。
今回の記事では、社会人の英語力に関する調査やデータをもとに、世代間・キャリアステージにおけるスキルや意識の違いを明らかにしつつ、いま企業が社会人に求める英語力についてご紹介していきます。
(※注:以下、今回の記事で「TOEIC」と表記する場合、「TOEIC Listening & Reading Test(TOEIC L&R)」のことを指します)
TOEICスコアに100点も差が?!世代別英語力の違い
企業が社員の英語力を測るツールとして、民間の英語試験を活用しているケースはたくさんあります。特に、日本国内での受験者数が255万人を超える「TOEICテスト」は、その代表格と言えるでしょう。一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が2013年に行った『上場企業における英語活用実態調査』によると、採用活動時に、応募者が記載したTOEICスコアを「参考にしている」(「参考にしている」「参考にすることがある」の合計)と回答した企業の割合は、69.3%にものぼります。(※参考1)
英語が“デキる”若い世代
ここでは、このメジャーなビジネス英語向け試験である「TOEICテスト」における、世代別の英語力の違いについて取り上げたいと思います。
出典:『TOEIC Program DATA&ANALYSIS 2015』(P.8)
上記は、『TOEIC Program DATA&ANALYSIS 2015』に掲載されている「社歴別受験者数と平均スコア」に関するグラフです。(棒グラフ:ライトブルー=Listening、ダークブルー=Readingのスコア)
まず、ここから明らかとなったのは、リスニング、リーディング、トータルスコアの全ての項目において、内定者の平均スコアが他の世代に比べて高いという結果です。そして、内定者の次に高いのが、入社2〜5年目となる20代前半の社会人となっており、ここから入社歴が長くなるにつれ、平均点が下がっていくという傾向を読み取ることができます。
入社11年目以上は、全体平均からも大幅に下回る結果に
特に、内定者と入社11年目以上の社会人の間には歴然とした差が見られます。
内定者の平均点である551点に比べ、入社11年目を超えた30代以上の社会人は452点であり、驚くべきことに100点近い差があることになります。さらに残念なことに、この点数は、TOEIC公開テストの受験者全体の平均点である585点を大幅に下回るという結果となっています。
ではなぜ、20代前半の社会人と30代以上の社会人では、その英語力に大きな差が開いているのでしょうか? 以下のセクションでは「意識」や「背景事情」における違いに注目することによって、その裏側に迫ります。
英語力に関する、世代別意識の違いとその背景
世代別にみたTOEICの平均点の差は、「英語に対する意識の差」に関係していることが明らかになっています。では、具体的に、どんな意識差があるのでしょうか。「平成世代」と「昭和世代」の比較を見てみましょう。
英語力に自信がある「平成世代」、苦手意識の強い「昭和世代」
株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメントが、18~79 歳の首都圏の一般生活者を対象に2014年に実施した調査によると、「若い世代ほど英語でのコミュニケーションレベルの自己評価が高い」という結果が出ています。(※参考2)
これは、自分自身の英語力がどの程度かという質問に対する回答を検証したものとなりますが、18〜24才の世代では「日常会話レベル」と評価したひとの割合が、実に4人に1人となっており、これは他の世代に比べて10ポイント以上も高いのです。
対して、30代〜50代では「日常会話レベル」と回答した割合は、およそ10人に1人であり、若い世代に比べ、自分の英語力に自信があるひとの割合はかなり少なくなっています。また、「英語は話せない」と回答した割合については、30代では38%、40代が42%、50代では45%となっており、世代が上がれば上がるほど、英語に対して苦手意識があるという傾向も見て取れます。
ライバルは外国人?!平成世代の就職事情
このような自分の英語力に対する自信や評価の差は、若い世代が今おかれている状況とも少なからず関係があるのです。
企業の採用活動は、30代以上の社会人が就職活動をしていた時代から、グローバル化に向けて大きく変化をしています。外国人留学生や外国人社員の採用に意欲的な日本企業は増加しており、就職・転職活動においてのライバルは、もはや日本人だけではなく、外国人もその対象となっています。
実際、グローバルに活躍できる将来の幹部候補となりうる人材の育成など、人材の国際化に向けた取り組みを重要視している企業は、数年前と比べて増加しています。そのため、社会人としてグローバル化に対応することができる最低限の英語力を身につけておきたいと考える若者は少なくありません。
このような時代背景もあり、今時の学生は「大学受験が終わったから、英語の勉強はしばらくいい…」となるのではなく、積極的に英語でのコミュニケーションの場を設けたり、TOEICのスコアアップを目指したりと、入学後も英語学習に真面目に取り組むようになっています。また、入社後も英語学習にお金・時間を投資し、社内での海外事業部への移動や外資系企業への転職を目指す若手社員も少なくありません。
キャリアステージで変化する!企業で求められる英語力とは?
それでは、英語力に関するデータや調査結果を参考として、それぞれのキャリアステージにおいて社会人が求められる英語力について具体例をご紹介します。
企業が期待するTOEICスコアとは?
まず、企業が期待するTOEICスコアについて見てみましょう。『上場企業における英語活用実態調査』によると、企業が新入社員に期待するTOEICスコアは465〜670点であり、平均すると565点という結果がでています。一方、中途採用社員では610〜815点が期待され、平均すると710点になります。
新入社員・中途採用社員のどちらも、2011年度の調査と比べて期待スコアが上昇しています。とりわけ中途採用社員に対しては、即戦力となりうる英語力を企業が求めているということが近年の傾向として明らかとなっています。(※参考3)
「スピーキング」「ライティング力」が差をつける
また、昇進・昇格に求められる能力としては、TOEICスコアだけではなく、「スピーキング」「ライティング」といったアウトプット力の必要性がますます求められるようです。同調査では、51.7%の企業が、「TOEICスコア以外にスピーキング・ライティング能力を昇進・昇格の参考にしている、または将来そうしたいと考えている」と回答しています。(※「参考にしている」「参考にしていないが、将来はそうする可能性がある」の合計)
そのため、今後は「TOEIC S&W(TOEIC Speaking & Writing Test)」を組み合わせたり、4技能を計測できる英語試験を活用して社員の英語力を測る企業は増えていくと予想できるでしょう。
キャリアステージで求められる英語力は異なる
具体的に、それぞれのキャリアステージではどのような英語力が求められているのでしょうか。今回は、ミーティングにおける英語スキルを例としてご紹介します。『企業が求めるビジネスミーティング英語力』調査報告書(2014年)のデータでは、以下のまとめが掲載されています。(※参考4)
“職位のそれぞれの段階で求められているスキルは異なっていて、ジュニアクラスでは自分自身の英語力を鍛えること、シニアクラスでは会議のファシリテーションができるようになり、双方向性の議論へと深化させるための、より洗練された英語表現を習得していくこと、そしてマネージメントクラスでは、会議を離れた場での信頼関係の構築など、仕事で使う英語とはまた異なるレベルの英語が求められる様子がわかった。”(※下線は引用者)
このように、キャリアステージ毎に、求められるものは異なっていきます。マネージメント層へとステップアップをしていくためには、高度な英語力だけではなく、「ファシリテーション力」や「コミュニケーション力」を磨いていくことも意識していく必要があるのです。
おわりに
世代別の英語力の違いとキャリアステージにおいて求められる英語力についてご紹介しました。グローバル化の普及や教育の抜本的改革を起因として、世代における英語力の差は、今後ますます広がっていくかもしれませんね。
<参考URL一覧>
【参考1】「上場企業における英語活用実態調査 2013年」(P5,6)
【参考2】【若者調査】若者の4人に1人はバイリンガル?
【参考3】「上場企業における英語活用実態調査 2013年」(PDF資料リンクはこちら)
【参考4】JACET-IIBC共同研究プロジェクト「企業が求めるビジネスミーティング英語力」調査報告書が完成
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