※この記事内の例文は、World Englishes の考え方に則り、英語ネイティブにとって正確であることより、あらゆる人に分かりやすいことを優先しています。
みなさまこんにちは、ライターの石田です。
本日は多くの英語中級者の壁、仮定法を一緒に勉強してまいりましょう。
その前に、私事で恐縮ですが、最近いろいろなお仕事を任せていただき、妙に忙しくなってしまっております。
「もっと時間があったら、あれもこれもできるのに……」とぼやいてばかりです。「もしよろしければ、休ませていただけたら幸いです!」と関係各所に言いたい気持ちでいっぱいです。
ところでこのぼやきですが、仮に英語で言うとこうなります。
If I had enough time, I would do more things.
(もっと時間があったら、もっといろいろなことが出来るのに)
I would appreciate it if you could let me take a rest for a while.
(もし少しの間休ませていただければ幸いです)
このような、「もし○○だったらな」を言い表すのが「仮定法」です。中学英語の範囲を超えていることもあり、難しいイメージがありますが、こう考えると、日本語でも日常的に使っているように思えます。
1. 仮定法とは
2. 仮定法って「愚痴」専用?
3. 仮定法の「法」って?
4. 日本語の仮定法
5. 仮定法の中心的なニュアンス
6. ボヤキだけじゃない!仮定法の使い道
7. 過去形の持つニュアンス
8. 仮定法と敬語
9. まとめ
1. 仮定法とは
仮定法は、高校英語で習う文法項目です。大きく「仮定法過去」と、「仮定法過去完了」に分かれています。仮定法の使い方は「2つの文をつなげた」形の文で説明されます。
①文の最初に”if”をつける。
②前の文の動詞を過去形に変える。
③後ろの文の動詞の前にwould, could, mightなど助動詞の過去形を付ける。
(1) I am a bird, I can fly to you.
(私は鳥なので、あなたの所に飛んで行ける)
(2) If I were a bird, I could fly to you.
(もし私が鳥だったら、あなたの所に飛んで行けるのだけれどなあ)
=私は鳥ではないので、あなたのところに飛んでは行けない、残念だ。
①文の最初に”if”をつける
②前の文の動詞をhad+過去分詞(過去完了形)に変える。
③後ろの文の動詞の前にwould, could, mightのような助動詞の過去形をつけ、その後ろをhave+過去分詞(現在完了)に変える。
(3) I had enough money, I bought the computer.
(お金が十分あったので、そのコンピューターを買った)
(4) If I had had enough money, I would have bought the computer.
(もしお金が十分あったら、そのコンピューターを買えたんだけどなあ)
=お金がないので買えなかった、残念だ。
形だけ見るとずいぶん複雑ですね。このように、「現実とは違う」ことをあえて口に出すときに使うのが仮定法だと言われています。
2. 仮定法って「愚痴」専用?
教科書に載っていた上のような説明を見て、落第生の私はいろいろ考えた末、こう結論付けました。
「なるほど、この仮定法というのは、愚痴を言うための文法なんだな」
私の高校の教科書には、上にあげたような後ろ向きな例文がずらずら列挙されていました。こんなネガティブなことを、自分が英語で言う機会があるとはちっとも思えません。なんでわざわざこんな面倒なものを覚えなければいけないのでしょうか。
「愚痴のためだけに新しい文法を作るなんて、英語圏の人って意外と暗いのかな?」
こうして私は、仮定法の勉強を完全に放棄したのです。
3. 仮定法の「法」って?
そもそも、「仮定法」という言葉はどういう意味なのでしょうか。
学校英語で使われている英文法用語は、英語で書かれた言語学の用語を翻訳した言葉がほとんどです。まずはオリジナルの英語で仮定法を何というか見てみましょう。
定番受験参考書の『総合英語Forest(7版)』を見ると、仮定法=”Subjunctive mood”と書いてあります。
”Subjunctive”は言語学の専門用語で、「仮定的な」という意味です。この中には、ただの仮定ではなく、「事実ではないので、起こりえないこと」という意味合いも混ざっています。
では、”mood”とは何でしょうか? この問題には、少しマニアックな解説が必要です。
結論から言えば“mood”は、私たちが日ごろ使っている「ムード」という言葉と似た意味を持っています。「雰囲気」ですね。
とは言え、”mood”もれっきとした言語学の専門用語です。
言語学者の中には、言語を「伝えたい内容」と「話している人の出したい雰囲気」に分けて考える人たちがいます。日本語で言えば
「明日は雨が降るだろう」
というフレーズを
「伝えたい内容:明日は雨が降る」+「これは推測だよという雰囲気(ムード):だろう」
に分けて考えるのです。とはいえ日本語の場合、こういった「事実かどうか」を動詞の形ではあまり区別していません。
それに対して英語では、「“これは事実だと思っているよ”という雰囲気」と「“これは事実ではないと思っているよ”という雰囲気」を、動詞の変化を使って厳密に分けなければいけません。
「これは事実だよ」という雰囲気を出すのが、“indicative mood”=直接法
I am a bird, I can fly to you.
「これは事実ではない」という雰囲気を出すのが、“subjunctive mood”=仮定法
If I were a bird, I could fly to you.
このように、「話し手の醸し出したい雰囲気」によって動詞の形を変えようね、という約束事のことを”mood”=「法」と呼ぶのです。
英語では、動詞の形を変えることで、「事実だと思っていること」と「事実ではないと思っていること」を厳密に区別しなければいけません。それが英語のルールです。
仮定法とは、「“私はこれが事実と異なると思っているよ”という雰囲気を醸し出す」ための話し方の工夫のことなのです。直接法=「“事実を直接言っているよ”という雰囲気を醸し出す話し方」とは、この点が違うのです。
● 英語は、「これを事実と思っているかどうか」を動詞の形によって厳密に区別しなければいけません。
この違いが、仮定法の習得を難しくしています。
4. 日本語の仮定法
『総合英語Forest』の仮定法の翻訳を見てみましょう。
If I had a lot of money, I would buy an island.
(たくさんお金があったら、島を買うんだけどな)
確かにこの文は、このように翻訳することが出来ます。でも、本当にこの1通りしかないでしょうか?
・たくさんお金があったら、島を買っているよ。
・たくさんお金があったら、島を買えるだろうけど。
・たくさんお金があったら、島を買っただろうに。
・たくさんお金があれば、島を買うのだが。
・たくさんお金があれば、島を買っているのだが。 …などなど
このように、いくらでも候補を挙げることができます。
つまり日本語は、「これは事実じゃないですよ」というムードを、とても多様な形で表わすことが出来る言語なのです。英語と違って、日本語は動詞の形で厳密に仮定法と直接法を区別しない代わりに、様々な表現で区別できてしまうからです。
一方、”If I had a lot of money, I would buy an island.” を、ここまで多様に変形させることはできません、wouldを別の助動詞に変えるのがせいぜいと言ったところです。英語の仮定法は動詞や助動詞の活用という1つの方法で作ることが厳密に決まっているからです。
なぜ日本語はこんなに多様な仮定の形を持っているのかは、日本語の条件文に関係しています。「~したら」「~すれば」「~するなら」「~するので」「~すると」など、日本語には条件を表わす形がとても豊富に存在しているのです。これは、外国の方に日本語を教える際にとても苦労する点でもあります。
つまり英語と日本語の仮定法の対応は、大げさに言えば
になっているのです。ですから、英文とその和訳を1対1で覚えただけでは不十分です。1つの英文に対応する日本語は無限に存在しているからです。これが、日本人が仮定法を使いこなせない最大の原因ではないかと私は考えています。
1vs 無限の対応をいちいち覚えるのは不可能です。ですから、「どんな日本語が、これは事実ではないですよというムードを出すことが出来るのか」を頭の中で整理したうえで、「英語の仮定法=同じムードを持つ言い方」に結び付けることが、究極の近道になりそうです。
5. 仮定法の中心的なニュアンス
仮定法は、「今言っているこれは、現実じゃないんだよ!」と言う事をあえて口に出すという言い方です。自分が現実になり得ると認識しているものには、仮定法は使いません。
If I get a lot of money, I will buy an island.
(お金ができれば島を買いたい)
「お金が出来たら本当に島を買うつもり」であれば、仮定法を使う必要はありません。筆者のアメリカの友人に聞いたところ、日本人学習者の中には、”if”をつけるとなんでも仮定法にしてしまう人が多いそうです。仮定法の「仮定」とは「現実ではないとわかりきっている仮定」のことで、全ての条件文に仮定法が必要なわけではありません。
日本語で言えば「Aだったら、Bをするんだけどなあ」「もしAであれば、Bとなっていただろうなぁ」のニュアンスが近いでしょう。
If I had a lot of money, I would buy an island.
(お金があったら、島を買うんだけどなあ)
そんなお金は現実にはないし、島なんて買う気はありません。でも、あえて口に出してみた。それが仮定法なのです。
6. ボヤキだけじゃない!仮定法の使い道
仮定法が「現実ではない」ことをあえて口に出す言い方だということがわかりました。
でも待ってください。「現実ではないとわかってる」ことをあえて言ってみることに、どんな意味があるのでしょうか?
(5) If I had a car, I could drive with you.
(もし車があったら、君とドライブできるんだけど。)
(6) If I had more power, I would nominate you for a section chief.
(もし私にもっと力があれば、あなたを課長に推薦して差し上げられるのですが。)
これらはどれも、「現実には持っていないってわかってるけど、もし持っていたらこうできたかもしれない」という言い方をしています。
日本語訳を見てみてもわかるように、このような言い方をする理由は無数にあるのではないでしょうか。(5)の文では、車を持っていない恥ずかしさを紛らわしているとも言えますし、謝っているとも読み取ることが出来ます。(6)の文では、「もし自分に力があったら……」と仮定したうえで、それを持っていない自分の無念さを表明しているように見えますね。相手への謝罪のようにも読み取れます。
(7) If I had had enough money in my wallet yesterday, I could have bought that skirt!
(もし昨日もっと財布にお金が入っていたら、あのスカートを買えたのに!)
この例では、「現実にはお金が入っていなくて買えなかった」ことを強調して、悔しさをアピールしているように見えます。
(8) If he were here, I would kick on his face!
(もしあいつがここにおったら、蹴り倒してやるねんけどな!)
乱暴な例で申し訳ありませんが、これには「あいつを蹴り倒してやれない」怒りや悔しさをにじませるような感じがあります。
まとめるとこのパターンは、事実ではないことをあえて口に出すことによって、「なにか」を相手に察してほしいときに使うようです。「何を察してほしいのか」は、文脈によって変わります。実は、話している人にもわかっていないかもしれません。
強調したいのは、これは日本語と同じだということです。
もし昨日もっと財布にお金が入っていたら、あのスカートを買えたのに!
もしあいつがここにおったら、蹴り倒してやるねんけどな!
これらの文にどんなニュアンスが含まれているかは、日本語話者でも意見が割れると思います。
仮定法的な言い方が持つニュアンスは、文脈によって変わります。だから、教科書では教えることが出来ないのです。それは、英語だけが特別難しいのではありません。どんな言語であっても仮定法は難しいのです。
7. 過去形の持つニュアンス
前回の記事でもお書きしましたが、過去形には「目の前の現実から距離を取る」ニュアンスがあります。
動詞や助動詞の過去形がなぜ仮定法で使われるのか? それは、過去形を使うことで「今現在」から距離を取っているからです。過去形を使うと、時間だけでなく、「今目の前にある現実」から離れることも出来ます。「もしこうだったら」という別の世界を作り出すことが出来るのです。
(9) I can speak English.
(英語が話せます。)
(10) × I wish I can speak English.
(英語が話せたらなぁ。)
(11) I wish I could speak English.
(英語が話せたらなぁ。)
(11)は、助動詞の過去形”could”を使うことで「英語が話せる自分」という現実とは違う理想の存在を仮定した上で、それをwish(願望)するという文です。(10)のように現在形を使ってしまうと、「英語が話せる自分」が想像上の存在ではなくなってしまうので、「いや、だったら話したらどうですか?」と思われてしまうことでしょう。
このように、過去形の本質は「目の前の現実から離れること」です。目の前の時間から離れれば過去になりますし、自分の境遇や能力から離れれば仮定になります。必ずしも時間と関係があるとは限らないのです。
8. 仮定法と敬語
ビジネスパーソンの方たちにとって最もよく使うのは、「敬語」としての仮定法ではないでしょうか?
え、英語にも敬語があるの?
という声が聞こえてきそうです。私たちは、「英語には敬語はない。直接的に話せばOK」と教わって来ているからです。しかしこの考え方、実は大間違いなのです。『英語のお手本 そのままマネしたい「敬語」集』のマヤ・バーダマン氏は、英語の敬語について次のように述べています。
・英語圏の人はフランクだから、直接的に伝える方がよい
・中学生レベルの英語で十分通用する
・ジョークを交えて話す方が受けがよいこれらはすべて間違いです。英語も日本語と同じで、敬語を用いて丁寧に伝えることが、基本的なマナーです。ジョークも、相手や状況によっては印象付けたり場を和ませたりする意味で効果的な場面もありますが、使わない方が無難でしょう。日本語で常識として言わないことや使わない伝え方は、英語でも変わりません。
出典:マヤ・バーダマン『英語のお手本 そのままマネしたい「敬語」集』
地球上のすべての言語に、「失礼な話し方」と「丁寧な話し方」が存在していると言われています。日本語はそれを「敬語」というシステムで区別しており、英語はまた別のシステムで区別しているというだけなのです。
そのシステムの1つが仮定法です。仮定法は、「現実にありえないことだとわかってはいるが」という話し方ですよね? これって、日本語でもよく使う前置きだと思いませんか?
(12) Please fill out the form.
(必要事項を記入してください。)
(13) I would appreciate it if you could fill out the form.
(もし必要事項を記入していただければ幸甚です。)
どちらの日本語が丁寧でしょうか?
やはり(13)ですよね。英文を見ると、今までの例とは語順が逆になっていますが、”if+過去形→ would+動詞” と、仮定法になっていることがわかります。
よく、「助動詞の過去形は丁寧語」と言われませんか?それは上の(13)で説明したように、仮定法のニュアンスが出てくるからです。
(14) Lend me a pen.
(ペン貸して。)
(15) Could you lend me a pen?
(もしペンを貸していただけたら(助かります)。)
(15)の文の ”could” には、「もし貸していただけたら」という仮定のニュアンスが含まれているので、丁寧に聞こえるのです。
因みに、お願いをするときに”could you”と”would you”のどちらを使うかは、状況によります。
“could”のもとは”can(可能)”ですから、「あなたの能力や置かれた状況から判断してできますか?」と聞きたい時には”could”を使います。
“would”のもとは”will(意志)”ですから、「やる意志がありますか?」と聞きたい時には”would”を使います。
ニュアンスとしては、”would”の方には「やる気あるの?」という感じが若干出てくるので、少し厳しい聞き方になるかもしれません。とはいえ相手がノンネイティブならそこまで気にする必要もありませんし、ネイティブであってもそれで怒るような人はまずいないので、恐れる必要はありません。
このように、日本語も英語も、仮定表現は敬語になることがわかります。
9. まとめ
形が複雑なせいで嫌われがちな仮定法ですが、日本語と比べてみれば決して難しい概念ではありません。「自分が現実だと思っていないことを、あえて言ってみる」言い方は、日本語でもごく普通に使っています。
仮定法にはこのような用途があります。
②敬語表現として使う。
このどちらも、日本語の「たら」「れば」の使い方と大差ありません。難しく感じられるのは
②日本語の仮定形のパターンが非常に多いため、1対1の訳文で覚えづらいこと。
という2つの原因から来ていると私は思います。
仮定法を使いこなせると、英語は一気にフォーマルになります。敬語としての仮定法は、ビジネスパーソンの方には必携と言えるかもしれません。ノンネイティブでもこの用法は勉強している方が多いので、ノンネイティブ同士の会話でも使う機会は多いと思います。
次回のコラムではより実践的に、仮定法を会話の中で実際に口から出すコツについて一緒に考えていきましょう。
<doing>
TOPIC Ⅱスタディ(10月試験)・・・1日3時間
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