まだ海外留学が今ほど一般的でなかった1970年代初頭にアメリカの大学に留学、その後もハーバード大学院で経営学博士課程を修了し、マッキンゼーでマネージャー職を務めるほか、世界を舞台に活躍を続けている石倉洋子さん。そんな石倉さんが世界と対話するとき、そして情報を得るときに重宝をしてきたのが英語の存在だ。TEDxTokyoのTALKでこれまでの半生や将来の夢を語り、BBCラジオでゲストコメンテーター、ダボス会議でモデレーター役を務める際にも、その英語力をいかんなく発揮している。知的で説得力のある英語を石倉さんはどうやって手に入れたのか? リーディングやリスニングの心得、プレゼンやモデレーターの仕方など、英語だけでなく仕事にも使える話をじっくり聞いた。
英語を学べば得られる情報が増える
Q:ずっと長い間ビジネスの一線で活躍されるとともに、大学で教鞭をとられ後進の指導にもあたられている石倉さんですが、日本人が英語を学ぶ意義とは何だとお考えになっていますか?
今の世の中はネットを使って世界からありとあらゆる情報が取れ、自らも情報発信ができる時代です。将来は変わるかもしれませんが、今のところ世界で最も使われている言語は英語です。英語でコミュニケーションができれば世界が必ず広がります。そうですね、10倍は広がるでしょう。
日本語だけだと、世界は広いのに自分の活動範囲がグッと狭まってしまう。箱庭で遊んでいるような感じになってしまってつまらないと思うんです。英語ができれば、広がり方がガラッと変わってくるんですね。
「通訳がいるし、翻訳機だってあるんだから自分には英語はいらない」という声も聞きますが、直接情報を読み取ったり、生身の相手と対話したりすることもとても大切です。
Q:石倉さんは、大学3年生で 交換留学生としてアメリカのカンザス州に行かれていますよね?
ええ、行きたくてしょうがなかったんです。出発前、自分では英語が結構できるんじゃないかと思っていました。ESS(English Studying Society:英語研究部)に所属していましたし、上智で比較文化の授業も聴講していましたから。ところがいざ行ってみたら全然わからなくて愕然としました。
今でもよく覚えているのは、図書館で本の斜め読みができなくて、四苦八苦しながら分厚い本と長〜い時間格闘したことですね。最初のうちは、宿題が出されても課題が何なのかさえさっぱりわからなくて……。毎回授業が終わってから先生に内容を聞かなければなりませんでした。
Q:そんな状況で、どうやって授業についていったんですか?
朝から晩まで図書館にいましたね。あるとき4週間の集中講座を取らなければならなくて、私は西洋史を選びました。すると、読まなければならない資料が膨大でついていくのに必死でした。でも、その授業を乗り越えたら読むスピードがグッと早くなりました。
日本の上智大学に戻ってみると、今までも知っていた神父さんたちが、面白いジョークをたくさん口にしていることにもとても驚きました。留学前は聞き取れていなかったんですね。
2度目にアメリカに留学したときも、英語の面で大きな転換期がありました。それ以前は小説でも、英語で物を読むと勉強をしているような気になってしまい、まったくリラックスできなかったのが、楽しめるようになっていったんです。たくさん読んでいれば、あるときそんな瞬間がふとやってくるんですよね。
スキマ時間にポッドキャストでビジネスニュースを聞く
Q:ワンステップ上がったという感覚ですね?
ええ。今は英語のポットキャストを毎日スキマ時間に聞いているんです。iPhoneを使い始めてからだから、もう4、5年ぐらいになるかな。昔は英語を1日中使っていると夕方には疲れてしまってもう嫌だと思っていたのですが、最近は全然疲れないんです。どうしてだろうって考えてみたら、ポッドキャストを毎日聞いているからだって思い当たったんです。
Q:今でも進化されているんですね。ボッドキャストではどんな番組を聞いているんですか?
アメリカとヨーロッパのビジネスニュースを中心に聞いています。BBCとエコノミスト、ウォールストリートジャーナル、PBS(アメリカの公共放送)などで、毎日ニュースを聞くんです。
Q:ビジネスパーソンなど、英語のボッドキャストに挑戦する英語学習者はけっこういるのですが、みんな続かないという悩みがあるようです。
楽しく、自分に役に立つ内容と思えるものを聞いています。私の場合はビジネス関連のものが中心になるんです。題材に興味が持てないと、「英語の勉強をしている」感が強くてつまらない。私が関心を持っているトピックがどんなふうに伝えられているのかという気持ちで聞いています。アメリカとヨーロッパでは報道のされかたもまったく違います。ヨーロッパではアフリカのニュースの量も多いですし。また、英語の言葉の選び方や話し方のトーンの違いなどが比較できるのも楽しいです。
Q:英語力がまだまだの人には、内容や違いを楽しむのはなかなかハードルが高いと思うのですが?
最初から完璧を求めすぎずに、「だんだんわかってくればいいや」と考えて続けていけばいいのではないでしょうか。この間も「最初はpassionがあったけど、だんだんなくなってしまったんです。どうしたらいいですか?」ってある人に聞かれたんですけれど、熱意ややる気が下がるのは当たり前のことなんですよね。そこで、「またやり直そう」と思う気持ちが大切なんです。
みんなちょっとやってみてできないと、がっくりきてしまう!ようですが、落ち込む必要なんてなくて、またやってみればいいだけ。私も忙しかったりして一時英語にふれない期間があったりしますが「またやる」という“スイッチ”はすぐに入るようになっていますよ。
Q:完璧を求めすぎず、気長に続けていくことが重要なんですね。
そうですね。あとは、誰かと一緒にやることも大切です。「この番組だけはお互い聞いておきましょうね」と決めて、次の日に感想を話しあうことにしたら、自分だけの問題ではなくなるので、何とかやらなくてはと思うのではないでしょうか。
あともっとやりたい人たちは、グループを作ってみてもいいのでは?私の知り合いにもEconomist Readersというグループを作って、 エコノミストの記事の中からいくつかを選んで、各自で事前に読んでおき、グループで集まって、毎週日曜の朝に英語でディスカッションするという人たちもいますよ。
英語でのプレゼンやモデレーターを務めるときの心得
Q:石倉さんはTEDxTokyo Talkで英語のプレゼンもされましたね。
はい。ここ最近でいちばんというくらい緊張しましたよ。
Q:そんなふうにはまったく見えませんでした。
かなり練習したんですよ。リハーサルを何度もしましたし、言い方をこうしたほうがいいというような助言もたくさんもらったんです。最初私は、舞台で歩き回りながら話していたんですが、「ちょっと自信なさそうに見えるから」とあまりうろちょろしないように注意されたり(笑)。使う写真も違うカットにしたらなんてアドバイスもありました。
Q:印象深いスピーチの裏には、やはり入念な準備があったんですね。石倉さんが英語を使う上で、今も難しいと感じる場面はほかにありますか?
その分野の専門家が集まる会のモデレーターをするときは大変ですね。モデレーターとしてかなり場数を踏んでいるので以前より緊張はしませんが、準備にはかなり時間を費やします。私は十分準備をしたという実感がないとできないタイプなので、下調べをするんです。パネリストには全員事前に連絡をとって、言いたいこと、質問したい項目などを聞いておきます。どう発音していいかわからない人の名前や会社名を確認したりもします。
それでも間違えることはよくあるんですが(笑)、周到に準備して「ちゃんとやった」と思えれば、自信をもってできるし、その場でもなんとか臨機応変にできます。準備しておかないと、それが外に出てしまうものなんです。自信なさそうな様子を見せると、攻撃されてしまうこともありますし。
もちろん、準備なんて一切せずにその場でアウトラインを書いて見事に仕切ってしまう人もいます。でも、私には到底できないので、ちゃんと構成や時間配分まで考えておきますね。
Q:どれだけ準備をしても想定通りにはいかないことは多々ありますよね? 発言が異様に長いパネリストがいたりとか……。
まず「発言は短く」と事前に言っておきます。実際の場で数ページにもわたる原稿を読んでいて長くなりそうだなと思ったら、「短くまとめてください」とメモを渡すこともあります。それから、簡潔にまとめて時間通りに終わる人から指名するのもコツですね。最初の人が長いと後の人もみんな長くなりますから。
「Davos Experience in Tokyo」で英語のアウトプットの機会を提供
Q:石倉さんが現在力を入れられている「Davos Experience in Tokyo」も英語を使ったディスカッションの場ですね。
タボス会議というと、基調講演があって、それを聴衆が聞くイベントというイメージを持っている人が多いと思います。でも、私がいちばん面白いと思うのは少人数にわかれて行うブレインストーミング。それをみんなにも味わってもらいたいと思って始めたんです。
小グループでのディスカッションやブレインストーミングは場数を踏むことが大切です。最初は少人数というリスクが少ない環境で、自らリーダー役も務めたりして徐々に慣れていけば、誰でも英語でディスカッションできるようになると思って、月1回のペースで継続的に開催しています。
トピックは少子化や高齢化といった日本が直面している問題や、「もう一度生まれて来るとしたら日本人になりたいか、なりたくないか」など誰でも自由に考えられる仮想の設問をテーマにすることも。多くの人が興味を持てて、発言もしやすいようなネタを考えています。
私は、ブレインストーミングに関わらず、英語もビジネスも実践する場がないと絶対にダメだと思っているんです。リーダシップやビジネス理論をいくらテキストで学んでも、実際にやってみないとわかりませんから。基礎をある程度学んだら、自分で使ってみることが大切です。この「Davos Experience in Tokyo」では、多くの人が一度に英語のブレインストーミングの実践を体験できるんです。
Q:どんな人が参加するのですか?
英語のアウトプットをする場としてやってくる人が多いですね。ほかの参加者の発言の仕方から学べることが多いという声もよく聞きます。
Q:参加者の英語のレベルはかなり高いのでは?
いえ、そんなことはありません。私はこの会については、いろんなところで広く宣伝して人集めしているので、レベルもさまざまですよ。「友人から聞いたので、英語があんまりできないけど、とりあえず来ました」というような人でも、その気になって楽しそうにやっていますよ。最初は何も言えなくても、何度も来ているうちにだんだん発言できるようになっていくんです。
Q:毎月1回、新しいトピックを考えるのも大変ですね?
今は定期的に参加してくれている人と企画ミーティングをしてアイデアを出しあったりしています。とにかく、新しいもの好きなので常に違ったことをしたいんです。外国に行ってみたいという小さいころからの夢もやはり、新しいもの見たさからでしたね。
同じテーマのものばかりをやっていると、言うことも聞くことも同じ、話す人も一緒。これでは停滞してしまうし、つまらない。英語でconnecting the dots(点と点をつなげる)というのをよく聞きますが、ホントだなと思うことがよくありますね。いろんなことをしたり、いろんな人に会ったりすると「あ、つまりこういうことなんじゃないかな?」と思う瞬間がある。そういう瞬間が大好きですね。
Q:日本の英語教育についてはどう思われますか?
とにかくアウトプットの機会が少なすぎますね。だから、自分の考えをまとめ、意見を英語で述べる訓練ができません。世界と共同で何かをするときは、言葉ももちろんですが、自分の考えを持ち、それをシェアして、まったく意見の異なる人とも対峙してよりよいアイデアを考えなければならない。私たちは、そのためのコミュニケーション手段の一環として英語を学んでいるんですよね。だから、質問をしたり、意見を言うという訓練を取り入れていってほしいですね。
Q:これから英語でアウトプットするときは、自分の意見をもっと積極的に言ってみようと思います。それでは最後に石倉さんが英語で好きな言葉を教えてください。
他でもよく言われていますが、Follow your heart.でしょうか。「頭でごちゃごちゃ考えすぎたり、周囲の期待に応えようとするのではなく、心から自分のやりたいことを。自分の人生なのだから」という意味を込めて。
「Davos Experience in Tokyo」概要
「Davos Experience in Tokyo」の詳細概要につきましては、オフィシャルページをご参照ください。毎月イベント情報が更新されています。
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