どうしたら最も効率よく、しかも楽しく英語学習ができるのか? 英語を勉強する私たち誰もが知りたいこの問題を、学習環境のデザインを専門に研究する東京大学の山内祐平教授に教えてもらうべく、インタビューを敢行! 最近よく耳にするオンライン大学、ICTや反転授業など、最新教育動向を踏まえた学習環境の整え方など、目からウロコなお話がたくさん飛び出した。なぜ英語を学ぶのかを見つめ直すきっかけにもなるはずなので、「学習に行き詰まった」「モチベーションがダダ下がり中」という人、必見です!
日本にいながらにして、世界の有名大学の授業が英語で受けられる時代が到来!
Q:ここ最近、英語に限らずインターネットで得られる情報、ソースを使って多くのことが学べるようになりました。やはり、これからの学習にはネットが欠かせないとお思いですか?
そうですね。今は世界中のトップ大学がオンラインにて無料で受けられるコースをたくさん提供するようになっています。これはMOOC(「ムーク」と読む。Massive Open Online Courseの略)と呼ばれていて、ハーバードやスタンフォードをはじめ、多くの有名大学が提供しています。当然、海外の大学のコースは英語が主流になります。つまり、英語ができれば、日本にいながらにして世界中の学習資源にアクセスできるようになっているんです。
東大も去年からMOOCにコースを出し始めました。宇宙物理の村山斉(ひとし)先生の「ビッグバンからダークエネルギーまで From the Big Bang to Dark Energy」と、国際政治の藤原帰一先生の「戦争と平和の条件 Condition of War and Peace」いう2つの英語によるコースです。
Q:受講の仕方は?
学習者は、約10分刻みの講義風景の動画を1週間に数十本、計数時間見ることになります。その上で確認テストがあり、わからない箇所があれば、掲示板のような役割を果たすディスカッションボードを使って、学習者同士で教え合うようにします。これを2カ月続けて最後まで講義を見終わったら、final exam(最終試験)を受ける。そんな流れです。
この2つのコースで世界中から8万人を越える人が登録して、5000人以上が修了しました。東大の全学生の数が2万8000人ですから、その3倍弱の人が登録したことになります。また、東大の全留学生の数は3000人なのですが、2カ月でその数をはるかに上回る修了者が出たわけです。もちろん単発コースですから、正規の講義とは違います。ですがMOOCには、規模、パワー、勢いがすごくありますね。
Q:居住国の内訳はわかるのですか?
2つとも150前後の国からの受講者がいました。数がいちばん多いのはアメリカです。ほかにブラジル、インド、日本、スペイン、イギリスなども目立ちました。そして、 世界紛争も絡めた内容の藤原先生のコースでは、事例に上げられているボスニア・ヘルツェゴビナ、リビアなど当事国からの受講者がいたことも特質すべき点でした。従来、授業で国際政治の話をするときは、別の場所で起こっていることを遠い日本から見ていたものが、MOOCでは当事者も受講者となり得る。ITによって国境が無効化されると、ボーダレスな学習の場ができることがわかり、衝撃を受けました。
英語ができればアクセスできる情報量が一気に増加!
Q:レアジョブ英会話もある意味、国境を越えています。
そうですね。 東大は今年MOOCのコースを増やしていますし、世界でもその数は増加しています。ですから英語ができると、世界中の人が集まる学習コミュニティーにすぐに入ることが可能になります。
ある意味、今までは「なぜ英語を学ぶのか?」という根幹を考えたときに、「仕事で使う」という前提がないと、しっかりした動機にはなりにくかったと思うんです。ですが、MOOCが出てきたことで、「英語ができれば世界のありとあらゆる大学のコースが学べる」という環境になった。歓迎すべき大きな変化でしょう。
Q:学ぶ意欲や知的好奇心が英語によって満たされる時代ですね。「英語ができれば自分の世界をもっと広げられる」という気付きは、英語学習のモチベーションアップにつながりそうです。
その通りですね。MOOCの最大手はコーセラ(Coursera)というところですが、108校のパートナーがいます。コロンビア、スタンフォード、カリフォルニア、ペンシルバニアなど、早々たる大学が名を連ねています。東大はコーセラだけでなくエデックス(edX)というサービスにも入っています。こちらはハーバード、MITなどが加盟しています。
ハーバード大などは、正規に留学するには超狭き門ですが、MOOCはそれなりの英語力とやる気、そしてネット環境があれば、コースがとれてしまう。世界中のいろんな動向を深く知りたいと思えば思うほど、知が蓄積している大学にアクセスするのが得策です。そのアクセス手段として英語を学んだほうがいい時代が到来したんです。
英語字幕と再生速度を落とせば、英語初心者も授業で落ちこぼれない!?
Q:とはいっても、高度な英語力が必要なのでは?
いえ、そうでもありません。先ほど説明したように、MOOCは動画とディスカッションボードとテストだけで済みますから、辞書を引きつつやっていけば英語がさほどできなくても、何とかなるんですね。しかも、英語の字幕がついていて、再生速度を遅くすることも可能です。英語に自信がなくても、字幕をonにしつつ再生速度を半分に落として、辞書をフル活用すればある程度はついていけます。
こういった無料で受けられる、一般的にopen educationと呼ばれるものが広がった背景には、ICT(Information and Communication Technology 情報通信技術)が出てきて、教育や学習の世界が革命的に変化していることが上げられると思います。
Q:MOOCは本当に無料なんですか?
はい、個人認証をして履修証明を発行するといった一部のケースを除いてすべて無料です。誰でも自由にコースをとることができますし、とってから途中でやめてしまっても問題ありません。興味があるコースは最初全部登録しておいて、一通り見てから「面白そうだから最後までやろう」というコースだけ続けることも可能です。
Q:ハーバードのコースを英語で履修して修了したという証明ができれば、転職などにも有利になる、なんてこともありますか?
ええ、今後は就職、転職など、キャリアの世界も巻き込んで変化が起こってくるでしょう。特にIT系は実力重視の傾向が強いのでコーセラのサービスを使って、ジョブマッチをする企業とコース受講者が出てきています。Courseraではgrade(成績)が出るので、成績優秀者を企業に推薦し、その中から企業が欲しいと思う人材を採用する動きです。たとえば、Courseraの成績が良かったブラジル人がアメリカのIT企業に採用になった、という話が既に起こっています。
Q:東大のMOOCのコース受講者はやはり社会人中心ですか?
社会人が中心ですが、年齢層はかなりばらつきがあって、最年少はカナダ人の8歳の男の子でした。10歳ぐらいの子でも最終試験を90点以上でパスして修了証を受け取っていました。最初はびっくりしましたが、もう2年目なので慣れてきましたね。英語でこういったコースをとれば、世界各国からの幅広い年齢層の人と一緒に学ぶこともできるようになる。CourseraとedX両方合わせて全世界で計1000万人以上が利用しています。
英語学習の継続のカギはコスト。自分にあった組み合わせも大事
Q: 山内先生は、学習する上で最も重要なカギとして「学習時間の確保」を挙げていますが、これにもICTを使った学習が有効と言えますか?
そうですね。時間を確保するためには、コストが安くないとダメです。1分100円と高価だったらすぐやめてしまいますよね? MOOCは無料ですし、レアジョブ英会話だって低価格で毎日できるプランがあります。そういった無料ないし低価格のサービスが出てくることで敷居が下がり、結果的にコミットする時間が伸びるという状況になってきます。
Q:無料、低価格は継続する上で欠かせないですね。最近は、ゲーミフィケーションを使って、ゲーム感覚で英単語を覚えていくというようなアプリもたくさん出てきています。でもそれらは、本質的な学習には結びつかない、継続にはつながらないという声も上がっています。
ゲーム感覚のもののみで学習するのは難しいかもしれませんね。でも、「ハーバードのMOOCのコースをとりたいけど、単語力がない」というような状況になったとしましょう。専門的な英単語もたくさん覚えなければならないでしょうから、ゲーム感覚のアプリが役立つことはあり得ると思います。
ICTはツールなので、ある単体のサービス1つだけで、すべてが魔法のように解決することはまずありません。その事実を学習者が踏まえた上で、意識的にうまい組み合わせを考えて学習していくことが大切な気がします。
Q:英語学習者にも、どう組み合わせていけばいいかがわからず、途方に暮れる“英語難民”が少なくありません。
組み合わせは難しいですね。学習者一人一人違うので、英語学習に限らず「万人に向けの学習法はこれ!」というのはないんです。ですから「自分には何がいいんだろう?」ということも含めて学習者一人一人が意識しないとうまくいかない。自分で取捨選択できて、うまい組み合わせで勉強していける学習者はどんどん伸びていく一方で、これができないと、つまずいてしまい続かない事態が起こるんですね。
学習者が学習の仕方を自分で決めてやっていくことを専門的にはself regulated learning(自己調整学習)と言います。自分で決めて学習を進めていくのはやはり難しいことなので、可能にするために必要なプロセスを見極める研究もあるほどです。
Q:そのプロセス、ぜひ教えてください!
ごく簡単に言えば、plan(計画)→practice(実践)→evaluate(評価)というサイクルで学習を進めていくことです。自分をモニタリングしながら目標が何か、できているもの、できていないものは何かを見極めつつ、 意識的に調整していかなければなりません。ただ待っているだけでは学習はなかなか前に進まないんです。
Q:学校で習った英語は受験のための知識の詰め込みが中心で、しかも、言われたことだけをやってきた身には、自分で学習方法を決めるのは正直難しい。ネットを使えば、plan、practice、evaluateといったプロセスもやりやすくなるのでしょうか?
まず学習方法の選択肢が増えたことは喜ばしいですよね。自分に適した組み合わせの学習法を見つけることが、従来に比べて非常にやりやすくなった。
ただし選択肢が増えると、どれが適切かを判断するのが難しくなってきます。そこが教育サービスの出番なんだと思いますね。「目指すものがこれで、現状のレベルがここなら、○○と△△をやってみるといいんのでは?」という提案は、人間でないとなかなかできませんから。
大学教授だって英語にはいつも悪戦苦闘!
Q:山内先生は英語学習で苦労された経験は?
いつも苦労しています! 僕は留学経験もないので、たとえば 国際会議に出るとなると、もう準備が大変です。英語で発表する原稿をネイティブチェックに出すと真っ赤になって返ってきますよ。でも避けては通れないので、「下手でもしょうがない」と割り切って使っています。
Q:英語でプレゼンするときは、事前に原稿を読み上げる練習もしますか?
もちろんしますよ。
Q:英語ネイティブに聞いてもらってフィードバックをもらったりは?
大学には英語ネイティブの教員がけっこういるので、以前は自分ができるコンピューターについて教える代わりに、英文や英語のスピーチのチェックをしてもらうような技能交換をよくしていました。物々交換みたいな感じでね(笑)。今は場数も踏んで慣れてきたので、原稿のあるプレゼンのスピーキングまでチェックしてもらうことはなくなりましたが。
英語学習にも研究にも効く英語ツイッターのフォロー
Q:ほかに継続している英語学習は何かありますか?
純粋な英語学習ではないですが、関心がある外国人を英語のツイッターでフォローして、彼らが紹介する英語の記事を読むことなどは、時間があるときにやっていますね。リーディング、ボキャブラリーについては、自分の専門領域の周辺で最新のものを押さえておきたい気持ちもありますので。もちろん、そのほかに英語の専門書や論文も読んでいますが、up to dateな知識、そして英語を覚えるには意識してネットを使うようにしています。
実は僕が今研究している反転授業も、最初にネタを見つけたのは、英語のツイッターだったんです。
Q:そうなんですか! いつごろの話ですか?
2009年ごろです。ツイッターをチェックしていたらアメリカの先生方がflipped classroomとかflipped learningとかいうワードをどんどん使い始めていたんです。「何だこれは?」と思って、ブログ記事をたどってみたら「ああ、こんなことをやり始めたんだ」というのがわかったんです。それで僕が日本語で「反転授業」と訳して紹介した経緯があるんです。
ICTを使うといろんな情報が手に入るので、その事実と英語を学ぶことを切り離さないのが最も学習を日常化できる気がします。
学会での発表に対する質問の内容が聞き取れない!?
Q:(研究室に並べられたたくさんの英語の本を見ながら)たくさん英語の難しそうな本がありますね?
ええ、はやり洋書が読めないと仕事になりませんからね。大学の人間は(英文を)読むことができないといけません。だから、僕にとっては(長年の訓練で慣れた)読んだりプレゼンしたりするよりも、即席のコミュニケーションのほうがキツいですね。
Q:そうなんですか?
ええ。たとえば国際会議に出ると英語が“Englishes”と複数なんです。
Q:いろんな英語があると?
そうです。インド人、中国人、ドイツ人が話す英語などが交じり合うんです。英語ネイティブの発言は比較的聞き取りやすい。いちばんやっかいなのは、発表したことに対する各国からの出席者の質問ですね。英語の非ネイティブからだと、質問の内容がうまく聞き取れないこともあったりして、とても焦ります。
英語学習をすると最初は英語ネイティブの音を使って慣れていきますよね? 日本だとアメリカ英語が主流ですね。でも、仕事で英語を使うとなると、多くの場合いろんな国のなまりがあって、聞き取りのハードルはけっこう高いことがある。フィリピン英語、シンガポール英語、インド英語とか、独特の響きがありますよね。
シンガポールに行ったときにGoマカンと言われたんです。マカンはマレー語で「ご飯」という意味なので、英語とのミックスだったんですけど、こんなのしばらく住んでないと理解できませんよね。こっちはマカンという英語の単語を必死に思い出そうとしてたのに(笑)。
どれが正しいとか間違えとかではなく、それぞれの国で独自性が出てくるので、世界を相手に仕事をするとなると、そういったものに対応する必要が出てきます。
Q:英語学習者の中にはネイティブ信仰みたいなのがあるので、「レアジョブ英会話は大丈夫なの?」といった声があるのも事実です。
大半の日本人は相手が英語ネイティブか非ネイティブか以前に、自分の考えを英語で伝えられるか、そして英語で尋ねられている質問がわかって答えられるかが重要になってくるように思います。ですから、先生が英語ネイティブか否かはさして重要ではない気がしますね。特に多様化する英語という観点から考えれば、フィリピン英語も大いにありではないでしょうか。
日本人の英語力はupしていくのか?
Q:ICTが普及して英語学習のツールも飛躍的に増え、世界の情報にも英語でどんどんアクセスできるようになった今、日本人の英語力は上がっていくのでしょうか?
ええ、上がると思います。僕はその点は割と楽観視しています。ただICTがあるからというよりは、英語ができるメリットが大きいから、日本人は英語をもっと勉強し、できるようになっていくんだと思っています。「英語ができれば、こんなことも可能になるんだ」「あの人は、英語ができることであんな新しいことを始めたよね」といった認識が広がっていくと、「英語ができたほうが自分の人生が広がっていいな」とみんなが思い始める。そうなったときに道具としてICTがあれば、積極的に使って学習していく。そんな流れになっていくのではないでしょうか。
Q:レアジョブ英会話も1つの学習ツールとして、もっと利便性を高めていきたいと思います。
ぜひそうしてください。English Path(現:Rarejob English Lab)のインタビューでも、もっといろんな職種の人に学習法を聞いてみたら面白いんじゃないでしょうか? 一口に「仕事で必要な英語」と言っても業種でかなり変わってきますからね。たとえば最近は、ホテルでも外国人客をたくさん取り込みたいから英語を勉強したい人がたくさんいますよね。彼らが必要な英語は、学会や研究会、そして情報収集が主となる僕ら大学の講師が使う英語とは違ってくるでしょうから、勉強の仕方も異なるんじゃないかと思うんです。
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