英語力<仕事力<人間力。TOEIC(R)テストを超えてグローバル人材へ/IIBC常務理事 大村 哲明さん

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「TOEICでハイスコア≠英語で仕事ができる」

Q:TOEICテスト実施・運営団体の立場から、TOEICテストとはどのようなものだとお考えですか。

TOEICテストは主にワークプレイス(働く場)における一般的な英語コミュニケーション能力を測定するテストで、ノンネイティブが英語で意思疎通を行う際の基礎的な素養を測定します。「ワークプレイスでの一般的な英語コミュニケーション能力の測定」という目的のために、米国の非営利テスト開発機関ETSで千人以上の専門家が制作に携わっているテストであり、世界中で人々が日常的に使う英語力を隔てなく同じ物差しで測るという点において非常によくできていると言えるでしょう。
TOEICテストは1979年にリスニング、リーディングのテストとしてスタートしました。2007年からはスピーキング、ライティングのテストもプログラムに加わり、英語4技能を測定することができるようになりました。
ところで 、ETSはTOEICの他にTOEFLテストの制作も行っています。TOEICとTOEFLは往々にして混同されることがありますが、それぞれのテストは設計意図・制作目的・受験対象者が明確に異なることに留意が必要です。詳しくはそれぞれのホームページをご覧いただければと思います。

Q:学生や若手社会人がTOEICスコア向上に向け英語に取り組む姿をどのように見ていますか。

IIBC 大村哲明氏

多くの学生さんや若手社会人がTOEICスコア向上に取り組むことは、今後日本の将来を担っていく皆さんがグローバル社会の中で一層存在感を高め、正当に評価されることに必ず繋がっていくと思います。ただ、誤解してはいけないのは「TOEICスコアが高い」ことと「英語で仕事ができる」こととは違うということです。私は30年以上にわたり非英語圏も含め海外とのビジネスに携わってきましたが、その経験上、英語力は決して仕事の能力とイコールではありません。ビジネスは、相手がどこの国の人であろうと、何語で会話しようと、相手の立場や考えを理解したうえで、自分の考えを相手に理解してもらう、納得させる、というプロセスの繰り返しです。私が一緒に仕事をしてきた人たちの中には、英語はカタコトでも相手を説得する力を持った人がたくさんいました。その人たちは、英語という言葉を超えてビジネス上必要な業界専門知識や相手のバックグラウンドを正しく理解し、相手の信頼を勝ち得てビジネスを成功に導いているのです。
これからの30年は私が経験してきたこれまでの30年と違い、日本はますますグローバル社会の中で勝負していく必要があるので、世界共通語としての英語力はこれまで以上に必須の能力となります。それでも、英語ができる=仕事ができる、という構図には決してなりません。基礎能力、素養としての英語力を身に着けたうえで、どんどん自分から世界を広げ、仕事を覚え、実践でグローバルに活躍できる力を身に着けてほしいと思います。

TOEICプログラムを活用して「英語で仕事をする」シチュエーションをイメージしよう

Q:TOEICテスト、公式問題集の効果的な活用方法を教えてください。

TOEICテストで出題されるシチュエーションは、日常生活や職場で行われるごく一般的なコミュニケーションの場です。日本語でも英語でも、またそれ以外の言語においても、ビジネスの基本は情報収集です。ですから、まず基本として、読めること、聞けることが必要であり、次に情報発信、即ち話すこと、書くことが必要となります。TOEICプログラムをそのような視点で捉え、職場での英語コミュニケーションのスタイルを知り、慣れるために活用してみてください。
TOEIC公式問題集はテスト問題と同じ形式・レベルの問題が収録されています。「ワークプレイスで普通に使われる英語の縮図」であると意識して、問題や正しい解答の音読を繰り返すだけでも実践に必ず役立ちます。
多くの英語講師の先生方もおすすめしていますが、「音読」はとても重要です。声に出して読むことを繰り返すことで自分の記憶に定着し、実際のコミュニケーションの場で声に出して発信できるようになっていきます。

Q:TOEICスコアで何点から実践力の強化に移るべきですか。

IIBC 大村哲明氏

英語で仕事ができるようになり、グローバルに活躍したいと考えるならば、TOEICスコアにこだわりすぎず、実践力の強化に向けていってほしいと思います。スコアはもちろん高い方がいいのは言うまでもありません。就職活動の学生が「将来グローバルに活躍したい。でも今はTOEIC300点です」ということでは説得力がありません。グローバルなビジネスに携わることが英語学習の目的であるならば、一定のスコアレベル(例えば700点とか800点)を目指して勉強していただきたいです。でも自分が設定した目標レベルを超えたら、その先はスコアアップにこだわるよりも「実践」にこだわるべきだと考えます。社会人の方であれば仕事で英語が使える場面を求めて自ら働きかけていくべきです。そして、会社の経営者や人事部局の方には、社員がビジネスで英語を実際に使う機会を作ってあげてほしいと思います。ネイティブのようにきれいな発音でなくても、とにかく自ら発信していくことが重要だ、と自分自身の体験から気づき、自信を持って発信していくプロセスを経験することが重要です。経験ない社員をすぐに英語での交渉の場に放り込むということではありません。たとえばまずは外国とのテレビ会議に同席させる、ついでに、難しくても議事録を作らせる、など、多少プレッシャーを与えてみます。そういう機会がないと、たとえTOEICスコアが高くても仕事に結びつく英語力は身につきません。
スピーキング、ライティングのスコアも同様です。それぞれ200点が最高点ですが、ある程度のスコアを達成したらその先は実践力を磨いていくべきです。
「自分の会社ではビジネスで英語を使う機会がない」という方も、英語を使うボランティア活動の機会はないか?英語で話す友達を作ることはできないか?などあらゆる可能性を考えてどんどん動いていく積極性が必要です。ボランティアで知り合った外国の友人と実は仕事上でも繋がりができた、といったことはよくあります。また、話す訓練の場をたくさん作るという意味ではオンライン英会話なども活用するとよいですね。

TOEICを乗り越えて英語で仕事ができるグローバル人材になろう

Q:グローバルに活躍できる人材として求められるものは何だとお考えですか。

IIBC 大村哲明氏

英語力はもちろん必要ですが、それ以前に、日本語で相手と適切にコミュニケーションをとれるようになること、きちんと自分の意見を持ち発信することが必要だと考えます。ビジネスの現場では業界の専門知識や一般教養がビジネス相手のバックグラウンドを理解するうえで大変重要です。どんなに英語が流暢に話せても、取引相手先のことをよく調べていなかったり、相手の国の歴史や政治経済情勢を知らなかったり、ひいては自社の説明をキチンとできなかったり日本の歴史について適切な知識を持っていなければ相手に信用されません。そういった基本的なビジネス知識やしっかりとした一般常識を持ち、それを発信することができる。それは日本語でも英語でも同じことです。
そういった総合力、即ち「人間力」のない人は世界中どこの国でも、言葉の問題以前にビジネスパートナーとして信頼を勝ち得ることはできません。
英語力は「基礎的な素養」として必要な能力と認識して取り組みつつ、視野を広く高く、どの国の人が相手であっても信頼される人間であることを目指してほしいと思います。

当協会は「国際ビジネスコミュニケーション協会」という名称です。TOEICプログラムの各種テストの実施運営を主な事業としていますが、設立以来ずっと「グローバル人材開発事業」にも取り組んでいます。近年は「地球人材創出会議」という名称で、定期的に企業や団体の人事・研修関係者を対象として、各界の人材開発識者やグローバルビジネス経験豊富なビジネスパーソンを招いてディスカッションを行う場を設けています。こういった場の提供などを通じて、グローバルに活躍できる日本人の育成に貢献していきたいと考えています。

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