中高生を取り巻く環境は、保護者のかたの学生時代からは想像ができないほど、大きく変わろうとしています。文部科学省も、2020年の英語教育改革に向けて、4技能のバランスの取れたコミュニケーション能力を向上させることを目標とし、これまで中高生が特に苦手とされた「話すこと」「書くこと」の発信力を強化することに本腰を入れ始めています。それに伴い、学校での学習方法や大学受験のあり方も見直され始めています。このことにより、子どもたちにはどのような影響や可能性が生まれるのでしょうか。
今回は、東京学芸大学教育学部の高山芳樹先生に、たくさんの生徒や学生を指導されてきたご経験を基に、お話を伺いました。
コミュニケーションの相手は日本だけに留まらない
Q. 英語学習において、どのような点が、保護者のかたの時代と大きく異なるのでしょう。
おそらく、保護者のかたが学校で学ばれていたときは、アメリカ英語やイギリス英語を学んでいこうという風潮でした。しかし、現在ではアメリカやイギリスなどの英語母語話者と英語でコミュニケーションを行うよりも、むしろ英語を母語としない人同士のコミュニケーションにおいて英語が使われることが圧倒的に多くなっています。文部科学省も、「国際共通語としての英語」という路線を強く打ち出しています。つまり、やはりこれからは、アメリカやイギリスなどの特定の国にこだわらず、世界の人々と英語で意思疎通ができることが何より重要になっていきますし、それに向けて、学習の形も変わることになります。
Q. とはいえ、「うちの子どもに英語は必要ないのでは」と感じる保護者のかたも多いように感じます。
保護者のかたが育ってきた20世紀と比べると、交通の発達はいうまでもなく、さまざまなテクノロジーの進化により、物理的にも、国や国境を越えた人々の行き来が可能になっています。学芸大学にも、これまで耳にすることがあまりなかった国からの留学生が多数やって来ています。私の研究室にも、数年前に、ボスニア・ヘルツェゴビナで英語を教えている人が研修に来ましたよ。国の名前を聞いて、思わず地図を見てしまいました。
一昔前なら、外国人が一人もいないような地域もあったと思います。私が生まれ育った青森もそうでしたよ。しかし今は世界中のどこにいても、パソコンの前で、聞いたことのないような国の人とも、すぐに繋がることができるんです。
このように、本当にさまざまな国の人々が日本にやって来ますから、子どもたちが外国人に触れる機会も劇的に増えています。他にも、文化的なバックグランドの異なる人と、チャットやSkypeなどのオンラインで当たり前のように繋がれるんです。そんな状況のなかで、国際共通語となっている英語が話せないことのデメリットはとても大きいことを知っておいていただきたいです。もう、日本国内であっても、コミュニケーションをとる相手は日本人とは限りません。日本人とだけ話が通じればいいという時代は終わりを告げようとしているのです。
英語が話せないことはデメリットであることを知ってほしい
Q. これからの時代を担う子どもたちにとっては、英語が話せないことはもはやデメリットでしかないということなのですね。
今や、世界中で文化を異にする人同士がコミュニケーションをとるために必要な言語は英語なのです。それは事実として動かせません。なかには、英語ばかりに力を入れていると批判されるかたもいらっしゃいますが、もうこの流れは止められないと思います。そうだとすれば、物理的な距離を超えた人の行き来が当たり前という状況のなかで、リアルタイムで人と人が繋がっていかなくてはならないのですから、英語が使えないということは、デメリットと言わざるを得ません。
英語の手紙で繋がるなら、時間のあるときに辞書を引いてやり取りすればよかったんです。しかしこれからの世界は、リアルタイムで瞬時にやり取りをすることになるでしょう。そのときに英語が使えないことのデメリットは、本当に計りしれないということを、保護者のかたにはぜひ認識していただきたいと思います。
Q. 学校での授業や大学入試にも影響はあるのでしょうか。
もうまもなく改訂される学習指導要領に基づく教育が2020年度から小学校で全面実施される予定です。日本でもようやく、小学3年生から、外国語活動が導入されます。それに伴い、文部科学省もALT(外国語指導助手)を増やそうとしていますから、小3から、外国人と話をする機会が当たり前の状況になります。また、小5、6では、英語は教科化され、「聞く」「話す」はもちろん、「読む」「書く」の学習を経験することになります。加えて、2021年度からは、中学校の英語の授業は、英語で行われるようになることも決まっています。
大学入試については、不確定な部分は残っていますが、今までのような、リスニング、リーディングだけでなく、ライティング、スピーキングを加えた4技能試験を実施するという流れはすでにできています。もちろんこれからますます少子化が進みますから、選びさえしなければ、入れる大学はあるでしょうが、もし、お子さまの行きたい大学やその先の進路が明確なのであれば、一定以上の英語力を身に付けて、自分の武器にしておくことが必要だと思いますね。
連載「英語力が支える子どもの可能性」
中学・高校生の英語教育事情
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