日本、イギリス、オーストラリアのホテルで約17年間、主にマネジメントの仕事をしてきた高橋昭子さん。最も多国籍で多文化な職場のひとつともいえるホテルでは、一人のグローバルシチズン(地球市民)として働くことが求められるという。国籍や文化の枠を越えて、世界のなかの「個」として働くこととは?
あえて枠を外してみる
Q:17年間、ホテルで働いてこられました。どのような職場ですか?
ホテルは最もマルチカルチュアル(多文化)な職場のひとつです。
特に、イギリスで勤務していたザ・サボイ・ホテルやマンダリン・オリエンタル・ハイドパーク・ロンドンは、ロンドンを訪れる世界各国の王室や政界・財界の方々が利用されるホテルです。日々の仕事のなかで、異なる文化背景を持つお客様のご要望を理解し、それに応えることが求められます。
ホテルではそのスタッフもまた世界各国から集まっています。マンダリンオリエンタルのトレーニングマネジャーとして働いていたときには、世界20カ国から集まる100人のスタッフのトレーニングをしていました。
お客様も、一緒に働くスタッフも、どちらも多国籍で多文化なのです。ですから私自身も日本人というよりは、世界のなかの一人という認識で働いてきました。
高橋昭子さん
Q:海外で働くというと、日本人相手のビジネスや日本企業の現地支社勤務など「日本人だからできる仕事」を目指す人が多いかと思います。高橋さんの場合はどうだったのでしょうか?
私は日本人ということにとらわれすぎると、むしろ可能性が限られてしまうと考えています。「日本人枠」でできる仕事には限りがあるからです。仕事を探す際も、私はあえてその枠を外します。
海外で働こうと思ったきっかけは、責任のあるマネジメントの仕事がしたかったからです。当時は日本のホテルで働いていましたが、日本ではそのチャンスが少ないと感じていました。
私がこだわったのは、「日本人だからできる仕事」ではなく、ホテルのマネジメントの仕事です。
Q:最初に海外のホテルで働こうと思ったとき、具体的にはどのように仕事を探しましたか?
メールもない時代でしたから、手当たり次第に海外のホテルへ電話をかけました。アメリカ、カナダ、イギリス、シンガポール、香港と、英語圏のホテルを中心に、100件は電話をしたかと思います。
あっさり断られることがほとんどですが、履歴書を送ってくれと言われることもありました。履歴書を送ってはまた断られます。あまりに断られるので、履歴書を徹底的に書き直したところ、イギリスのホテル3件から電話面接をしたいとの返事がありました。
電話面接の前には、聞かれそうな質問の答えを紙に書き、それを部屋中の壁に貼って練習をしました。私は英語が特に上手だったわけではありません。それだけに、気持ちだけはなんとか相手に伝えようと必死でした。
面接の直後にはファックスでお礼の手紙を送りました。その後、1週間後に返事をすると言われたにもかかわらず電話がなかったので、こちらから電話をかけました。こうして、ようやく就労ビザ付きの仕事を得られたのです。
Q:型にはまらない就職活動ですね。
日本での仕事を先に辞めてから、ロンドンの仕事が決まるまでに1年間かかりました。これ以上失うものがないどん底の状態で、仕事が見つかるのをただ待っているわけにもいきませんでしたから。自分で切り開いていくしかなかったんです。
ザ・サボイ・ホテルの同僚たちと(右端が高橋さん)
「個」のコミュニケーション
Q:3カ国のホテルで働いて、何か気が付いた違いはありますか?
日本を離れて感じたことは、海外のホテルでは「自分の名前で仕事をする」ということです。 ホテルに雇われた者としてではなく、日本人としてでもなく、一人のホテリアーとして仕事をするのです。
自分の名前で仕事をするというのは、いかに自分の名前を売り込めるかということでもあります。チェックインされるお客様をお出迎えし、名刺をお渡しして名前と顔を覚えていただきます。そして自分が責任を持って最後までそのお客様に対応するのです。
お客様はそれぞれのスタッフのスキルを見ています。ですからご要望があるときには、そのスタッフの携帯電話に直接電話がかかってくることが多々あります。宿泊予約の際も、ホテルの代表番号ではなく、受付でもなく、スタッフの携帯電話に連絡がくることがあります。
私が働いていたロンドンのホテルのスタッフで、ハリウッドスターたちの間でよく名の知れた人がいました。このスタッフが他のホテルへ転職すると、ロンドンを訪れるスターたちも一緒に他のホテルへ移ってしまったことがあります。そんな話も珍しくありません。
Q:自分の名前を売り込むために必要なスキルは何ですか?
一番大切なのはコミュニケーション能力です。ホスピタリティー業は人と人との付き合いですから。
私がロンドンのホテルで教えられたことは、お客様をお部屋にご案内するときに3つの質問をするということです。質問攻めにしてもいけませんが、自然な形でお客様とのコミュニケーションをとることは大切です。会話のなかでご要望を知ることができますし、それに合わせたサービスをご案内することもできるからです。
お客様によっては、特別な素材のシーツでなくてはならなかったり、部屋の鍵が毎回3つ必要であったり、ティッシュの箱が鏡台の右側に置かれていなければならなかったりします。また逆に、過度の干渉を嫌がる方や、エスコートを好まない方もいます。
コミュニケーションのなかで得られたこのような情報はコンピューターシステムに入力し、次回の宿泊の際の参考にします。こうやって個々のお客様との関係を築いていくのです。
高橋さんが宿泊を担当したオノ・ヨーコさんからのお礼状
Q:はじめにホテルは多文化な職場だと言われました。そんな環境だからこそ求められるコミュニケーションのスキルもあるのではないでしょうか。
多国籍のお客様とのコミュニケーションで必要なことは、相手の国の文化や風習を知り、それを尊重することです。そしてどこの国のお客様に対しても平等に接することです。
マネジャーとして各国から集まるスタッフをまとめていくときには、それに加え、ひとりひとりのスタッフを知ることが大切です。国や文化の違いを越えて、個人として知り合うことでコミュニケーションがスムーズになります。その機会を作るためのパーティーやナイトアウト(夜の外出)、チームビルディング(組織づくりプログラム)を企画したりもしました。
多文化のなかの「個」として
Q:それぞれの文化を尊重しながらも、国籍などを越えて「個」のレベルで仕事をするということですか?
私自身も日本人として養われたものは失ってはいけないと思っています。たとえば相手の方に物を渡すときの渡し方、目上の方への話し方などでは、日本的なものを大切にしています。日本語ももちろん活用します。日本人のお客様のなかには、日本語が通じると安心される方がいらっしゃいますから。
けれども、日本人であることだけにこだわっていては仕事が限られます。「日本人」という枠を外して、「個」としての自分を出すことも大切なのです。
ロンドンのマンダリンオリエンタルから派遣されて、マンダリンオリエンタル東京の立ち上げをお手伝いしたことがあります。その時に日本のスタッフの<方々に伝えたことは、相手の気持ちを考えながらも「自分の言葉で自分の意見を言う」ということです。 日本は長い歴史と素晴らしい文化を持つ国です。それだけに「枠」があり、「個」を出しにくい部分もあります。けれども、多国籍・多文化な職場で働くときにはその枠から出て、個としてのグローバルシチズンになることも大切なのです。
取材・執筆:クレイトン川崎舎裕子 (Hiroko Kawasakiya Clayton)
編集:岡徳之
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