「自分には音楽しかない」「四六時中音楽のことを考えている」「嫌いな音楽なんかない」と根っからの音楽好きを自負する芹澤廣明さん。そんな彼の全米デビュー曲は、アメリカ人の大物作詞家やプロデューサーとのコラボによるものだったんだとか。
後編では、歌詞のフィードバックもしたという芹澤さんに、好きな歌詞など、この楽曲の魅力を語っていただきました。
全米デビュー曲は、アメリカ音楽界legendsとのコラボ
― Q:本当の全米デビューのすごさがよくわかりました。ダンサブルでイマドキ感の強いデビュー曲「Light It Up!」の内容について、詳しく聞かせてください。
曲先(きょくせん)です。曲と音が先にできて、それをアメリカのプロデューサーに聞いてもらって、詩をつけてもらって、最初はアイドルが歌って……。そのあとも細かいやりとりがありました。
(アレクサンダー:詞は「幸せの黄色いリボン(Tie a Yellow Ribbon Round the Ole Oak Tree)」という世界的なヒット曲を書いた作詞家のL・ラッセル・ブラウンが担当しています。ほかにもヒット曲をたくさん書いている人です。
彼がつけた詞を見た先生が「ここは、こういう言葉にしたほうがいいのでは」というインプットをしたこともあります。日本だと作曲、作詞となりますが、アメリカだとwritersというクレジットになるんですね。
先生の場合、作曲はもちろんですが、作詞にも加わっているんです。この曲のプロデューサーのジョエル・ダイアモンドは、ビルボートのホット100に50枚以上シングルを送りこんだ人物ですが、彼もwritersのクレジットに名を連ねています。
先生のお書きになったものを、今のアメリカ向きに少しアレンジしたんですね。ですから、writersクレジットには、3人の名前が入っています。)
デビュー曲には、lとrの区別など発音の難関が満載!
– Q:いちばんのお気に入りの部分は?
若い人の情熱みたいなところを歌っているので、
Time after time, (何度も)
And let’s do it some more(もっとしようよ)
とかね。
「何をもっとやるんだよ?」って思うでしょ(笑)。この詞を書いた人は、若い人のけっこう深いところまで書きたかったんじゃないかな。それは歳をとっても同じかもしれない。「年齢を重ねたっていい。もっと何かしようよ」いうふうにもとれるしね。
– Q:ご自分がまさにいろんなことに挑戦されていますね?
暇だからね(笑)。でも、この歌の詞の発音はけっこう難しいんですよ。lightとrightの区別とかね。
– Q:日本人が大の苦手とするlとrの違いですね。かなり練習されたのですか?
しない。しなくても、できる(笑)。けっこう早いテンポの中でのlightとrightの違いだけれども。ほかにも、I want toのtを発音するかしないかとか、Let’sとletの区別とか細かい違いがちょこちょこあるんです。そういう発音には気を使うよね。
– Q:歌詞が多くて、テンポも早い英語の歌をうまく歌うコツはなんですか?
単語と単語の間のつながりだね。あとは、イントネーション。これがすごく大事です。
– Q:収録前は、英語の発音をネイティブにチェックしてもらって修正とかはなかった?
ないない!
– Q:じゃあ、耳がすごくいいんですかねー。
えー?
(アレクサンダー:曲作っている方は間違いなく耳がいいです。)
俺はプロだよー。
(一同爆笑)
洋楽をうまく歌うテクってあるの?
– Q:失礼な発言をしていまいました。大変申し訳ありません!
基本的な発音の仕方がちゃんとできていないとダメで、歌う時は母音と子音の関係があるでしょう? つなげて言うのか、別々に言うのかという、そういうところは決まっている。法則があるんです。日本語にもあるけど、英語の歌は特にたくさんね。伸ばすところが難しいんですよ。あとはandのdのような鼻に抜けるところ。これがうまくできていないと歌にならない。
– Q:難しそうですね。カラオケで平均以下の私でも歌い込めば、完璧に歌えるようになりますか?
無理(笑)。ありとあらゆるテクニックみたいなものを知ってないと。これはオリジナルだしね。熟練していないと無理だろうな。
ローカルチャートのダンス部門で1位、総合でも11位をゲッツ!
-Q:そうなんですね。アメリカでの反応は?
(プリントアウトを見せながら)これはhomegrown hitsというオンライン上の最新(6月下旬)のローカルなヒットチャートでね、ダンスチャートで1位、トータルチャートで11位になっているんですよ。
– Q:ダンスチャートでナンバー1! クラブで聞かれているということは、若い人から支持されているわけですね?
よくわからないな(笑)。
(アレクサンダー:そうですね。トータルでも11位ですから。ダンスチャートの2位がトータルでは27位あたりなのを見てもわかるとおり、かなりいいポジションにいます。)
こういうチャートは全米でいっぱいあるんです。なんとか.comというのが。そういうところで上がってくると、全米チャートに出てくるようになる。非常に重要なプロセスです。
(アレクサンダー:全米は広すぎて一気にプロモーションはできません。新聞だってアメリカの全国紙はUSA Todayくらいじゃないですか。あとは地方紙。そういう意味では1つずつ地方を押さえていくわけです。)
ただいま制作中の新曲のジャンル、EDMがオモシロイ!
― Q:今後の展開は?
やっぱり、アメリカに行くことになるんじゃないかな。今次の曲を作っているんですけど、たぶん来いって言われると思う。
– Q:どんな曲ですか?
面白い曲。
– Q:もっとヒントをください。
「Right It Up!」よりもっとエレクトロかな。今のエレクトロニック・ダンスは、キャラクターが関係ない音楽なんですよ。ヨーロッパやアメリカで需要が高いんです。EDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)みたいなね。
(大泉氏:キャラクターが関係ないというのは、クラブには純粋にノレル音楽を楽しみに来る方が多いから、誰の曲がかかるかは問題じゃなくて、好きなサウンドなら有名無名を問わず反応がある、という意味です。
そんな土俵で支持されるのはパワーをいちばん持っている証ですし、すごいこと。とてもおもしろい世界だと思います。)
英語の発音キープのため毎日1〜2時間やっていること
– Q:そんな音楽活動を支えるため、今やっている英語の勉強は?
いやー、英語はね、触れていないと忘れちゃうんですよ。だから毎日寝る前にラジオを1〜2時間ほど聞いています。昔はFENと呼ばれていた、American Force Networkのニュースを聞くことが多いですね。半分くらいわからないときもありますけども。 いちばん自分に重要なのは発音ですから。
歌ったときに、どのくらい英語ネイティブに聞こえるかということ。だから勉強というのではないですが、英語のニュースを聞きながら「こういうふうに言うんだ」という作業を毎日やっています。
– Q:英語に不自由がなくなった今も毎日英語に触れているんですね。音楽の創作活動もやはり毎日?
頭の中ではね。物を作るというのは、頭の中の話だから。
– Q:机にへばりついて、ひねり出せるものではないと?
そう。だからこの間届いた詞はここがおかしいとか、ここを変えなきゃだめだとか、そんなことばかり考えています。自分のメロディーと詞を合わせた時にフックと言うんですが、歌はそれがないとダメ。どこでフックを作るか。全部感覚の話です。
才能ある人とのコラボを渇望。大勢の協力で成り立つ
音楽活動で大切にしているintuitionとは?
– Q:自分の曲で使ってほしいくらい好きな英語の単語やフレーズはありますか?
別にないかな。作詞家によって言葉のチョイスは違うから。いつも気にしているのは、売れそうな詞かどうか。日本の歌でも同じですが、才能のある人にとにかく出会いたい。
どんな仕事でもそうですが、1人では何もできません。いろんな人が力を出して何かができる。音楽もまったく同じ。総合芸術ですからね。音楽が世に出るまでには、マネージメントしてくれる人、作る人、発売してくれる人とたくさんの人が関わっている。さらに、買ってくれる人がいて初めてビジネスとして成り立つ。
そんな環境の中でどんな言葉をつむいでいくかを最初から考えることが重要だと思います。言葉の面白さはその都度変わってきますが、新しい言葉というものは本来ないに等しい。あるのは言葉をどう組み合わせるか。それで何か別のものが見えてくる。
たとえばenergyをfeel the energyとしたら何だか新しくなるでしょう? ただのenergyよりももっとダイレクトに伝わってくる。前後にどんな言葉を持ってくるかといったことは、常に考えます。その組み合わせを見つけたときに、ひらめくんですよ。毎日やっていることですね。ヒット曲は勘です。英語にするとintuitionかな。
大ヒットメーカーが語る、愛される楽曲のgolden rules
– Q:intuitionは芹澤さんの創作活動を語る上での重要なキーワードですね。ほかにはどんな英語のキーワードがありますか?
the spriti of rock ‘n’ rollとかかな。これがないとどんなヒット曲も作れない。まずアメリカだったら、ブルースがわからないと。日本の歌もそうだけど、最近はブルースがないんですよね。だから長続きしない。
ブルースが何かという話をすると長くなるけども……。ヨーロッパからアメリカに移民してくる、黒人がアフリカから連れてこられる。そこで歌が生まれる。その原型がブルース。その原型を知らなければヒット曲は生まれない。長く聞かれるような音楽は作れない。音の使い方、言葉の使い方。簡単な言葉でもブルースになると意味が深くなるんです。
たとえば、(完璧な英語のlとvの発音で)loveと普通に言うのと、(ブルース風に)love〜と下から声をしゃくるじゃない? これがブルースなんですが、聞こえ方がぜんぜん違う。黒人がよくやるのはloveをlo〜〜ve〜〜〜とこぶしをつけるでしょ。これ1つでまったく意味が変わってしまう。
「Light It Up!」もまったく同じで、歌うときにそれぞれに抑揚のつけ方がある。言ってみたらなまりみたいなものですね。それをどうするかを細かく考えていくんです。
目標はSukiyakiに続くビルボードNo.1!
– Q:今後の目標は?
アメリカで広く聞いてもらえる音楽を作ること。だから端的に言えば、ビルボードの1位です。ここを考えてやっていく。それまでに死んじゃったらしょうがないけど、元気なうちはそこを目指して、みんなの協力を得てやっていきます。それしか生きる道はないと思っています。
– Q:九ちゃん(坂本九)のSukiyaki(上を向いて歩こう)に次ぐナンバー1ですね?
僕のパターンとはちょっと違うけど、結果としてはそういうことです。全世界に知られるような音楽を発信したい。
– Q:九ちゃんは、アメリカの超有名なバラエティ番組「エド・サリヴァン・ショー」に出て、歌を披露していました。
そうだね、何か全米ネットワークの番組に出られたらいいなあ。そのときは一生懸命やりますよ。それまでは、地道に目の前の仕事を1つずつやるのみです。
博打と一緒でさ、片側にずっと張っていればいつかは当たるんですよ。両方張っちゃダメ。いつ来るかわからないけど。ずっと待っているんです、そのいつかを。そう思っていれば、人生楽しいじゃないですか。
「英語の勉強を一生懸命やったら、こんな夢がかなった人がいます」と聞けば、英語の勉強をやる気もがぜんあがるんじゃないかな? 僕が英語の歌を歌えるようになったのも、まあそれなりにがんばったというか、勉強したから。歌えるようになったから「出さないか」という話になった。
それは、ずっと張り続けたからですよ。途中であきらめたり、やめたりしちゃったらそこで終わっちゃいます。僕はずっと片方に張り続けるように、死ぬまで作曲を続けていきたいです。
こぼれ話
取材を終えて
炎天下の中で伺った取材。疲れをみじんも見せず、ご自分の仕事ぶりや英語学習の軌跡を披露してくれた芹澤さん。御年70歳にして将来の抱負を真摯に語る姿に接して、くたびれモードだった二十代、三十代、四十代の取材三人組も、帰り道では足取りが軽くなるほどの元気をいただきました。
Age is just a number.(年齢なんて単なる数でしかない/歳なんて関係ない)を地でいく芹澤さんのこれからのさらなるご活躍を楽しみにしながら、私たちも仕事、そして英語学習に励んでいきたいと思います!
<プロフィール>
芹澤廣明
Hiroaki Serizawa
1948年生まれ。神奈川県出身。高校時代にバンドを組み始め、1967年にグループ・サウンズ・バンド「ザ・バロン」を結成、ギターを担当。主に尾藤イサオのバックバンドを務める。1969年にNHK総合テレビの音楽番組「ステージ101」のオーディションにメンバー全員が合格、同番組の初期メンバーとなる。その後バンドメンバーの脱退があり、残ったメンバーと「ワカ&ヒロ」を結成。いくつかのシングルとアルバムをリリースしたのち、1975年に解散。「ヤング101」の元同僚のユニット「ジム・ロック・シンガーズ」への参加を経て、チェッカーズの作曲家兼プロデューサーとして数々のヒット曲を世に送り出す。TVアニメ番組「タッチ」の主題歌も大ヒットを記録。数々の著名アーティストに多くの楽曲を提供した作曲家として、広く知られる。
<アルバム紹介>
PONY CANYON INC.
発売元:ポニーキャニオン
¥3,456(税込)
チェッカーズをはじめ、1980年代のJ-POPシーンを代表する多数のヒット曲で知られる作曲家、芹澤廣明の作曲家活動35周年記念企画として6月20日にリリース。人気アニメのための作家活動に特化した初の2枚組コンピレーション・アルバム。「タッチ」「ナイン」「陽あたり良好!」のあだち充3作品の全主題歌をはじめ、「キン肉マン」「ハイスクール!奇面組」「ガンダムZZ」など、全35曲が収録されている。6月6日に全米発売された、自身が英語で歌唱する最新楽曲「Light It Up!」を、ボーナストラックとして追加収録。
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