フットサルコートで、4、5歳くらいの子どもたちが、笑い声を上げながらボールを追いかけていた。コートに近づくと、こんな声が聞こえてきた。
“Kick it out!”
“Get your ball. It’s right there!”
“Come over here!”
ネイティブのコーチ、そしてバイリンガルの日本人コーチが、大きな声で子どもたちに英語で指示を出している。とはいえ、ネイティブキッズのチームというわけではない。参加しているのは、日本人の子どもたちばかりだ。ここは、日本で初めて、英語でサッカーを教えてくれる「インターナショナルサッカースクール グローバルアスリート」。このスクールを運営するのは、グローバルアスリートプロジェクト代表の田中隆祐さん。日本人アスリートのマネジメントを行う田中さんが、子ども向けのスクールを始めたのには訳があった。
「トップアスリートの語学のサポートを続ける中で、早く始めるに越したことはない、と思うようになりました。アスリートは実力があれば海外でも活躍できるかというと、そうではない。言葉の壁ゆえに、本来の実力を発揮できないで帰国する人が大勢いるんです。監督やコーチの指示が分からなければならないだけでなく、チーム競技であれば仲間とのコミュニケーションが欠かせません」
ではこのスクールは、トップアスリートの卵のためのもの? 選ばれた子どもたちのスクールなのだろうか。
「実は、このスクールはプロを目指す子がメインのものではないんです。『トップアスリートにしよう!』という親御さんは非常に少ない。通常、プライベートなサッカースクールは、非常に『技術指向』が強いのですが、その中でこのスクールは、ある意味異色な存在です。サッカーを通じて英語を学ぶのが目的だからです。頭と身体を連動させる、コミュニケーション能力をアップさせることに力を注いでいます」
『英語で教えてくれる』スクールって?
では、このスクールを選んだ親御さんにはどのような思いがあるのだろう。2年生の葵(あおい)君、3歳の蓮一(れんいち)君、2人の男の子を通わせている、堀さんに話を聞いた。
-なぜ、このスクールに?
「学校の後、もっと身体を動かせたらいいな、と考えていたときに、このスクールのことを知りました。『英語で教えてくれる』というのが気になって、体験会に参加してみることに。お兄ちゃんだけと思っていたら、ついてきた次男の方が、『また行きたい!』って。実はお兄ちゃんのほうは、引っ込み思案なこともあって、かなり迷っていたんです」
-全部英語だと、びっくりしますよね?
「次男は英語でも、日本語でも、まだあまり気にしないというか(笑)。お兄ちゃんのほうは、さすがに2年生ということもあり『英語なんてわかんないし、できるかなあ……』と。そんなふうに始まったのですが、今ではお兄ちゃんのほうがはまっていて『ぜったい休まないよ!』って。すごく安心しました。楽しいっていつも言っています」
-2人が英語でサッカーを始めて7カ月。何か変化は?
「特にお兄ちゃんがすごく変わりました! 最初は自分から前に出て行くことはなかったのですが、最近は『パスパス!』と大声を出しているんです。2年生からのスタートでは、技術指向の、上手な子ばかりのスクールに入っていたら、きっと萎縮してしまって、サッカーを楽しむことはできなかったと思います。このスクールは、男の子も女の子も、何歳からスタートしても思い切り楽しめる。そこが他のサッカースクールとの大きな違いだと思います。家でも先生のジェスチャーを真似しているんですよ」
練習前の葵君をつかまえて、スクールについて感想を聞いてみた。
-サッカーは楽しい?
「楽しいよ!」
-英語でサッカー、難しくないのかな?
「最初はね、コーチの言うこと、全然わかんなかった。
でも今は全部分かるよ。あとね、学校の英語も、分かる」
田中さんによると、サッカーで使う英語だけではボキャブラリーが限られてしまうため、毎週英語のメニューを考えているそうだ。日常生活で使う単語、小学校のドリルに出てくるような単語を盛り込むようにしているという。また、「話す」こともメニューに積極的に組み込んでいる。
小学生クラスがスタート。初めて参加の子も
18時から小学生クラスがスタートする。今日は体験参加の子が3人。その中で、サッカー自体が初めて、という小学2年生の女の子が小さな声でつぶやいていた。コーチと子どもたちのやり取りを見て「なんでみんな言っていることわかるの? 今日は見学にしようかな……」 不安でいっぱいなのがその曇った表情から読み取れる。5年生のお姉ちゃんに連れられて、なんとかコートに入ったものの、足取りは重いままだ。
18時になり、小学生クラスが始まった。葵君も勢い良くコートの中に飛び込んでいく。20人ほどの小学生に、クラスを率いる千本コーチ、三井コーチ、そしてエミルコーチの3人が付いている。
まず最初は、ウォーミングアップ代わりの「しっぽ取りゲーム(フォックスゲーム)」。そのあと、ドリブルやカットの練習など、一般的なスクールと変わらないメニューが続く。違うのはコーチの指示が全て英語、ということだ。
“Keep the ball! Keep the ball!”
“Run! Run!”
“Go ahead! Go!”
千本コーチは、「短いセンテンスで、繰り返し」声をかける。そして、始めての子どもにもわかるように、身体をいっぱい使ったジェスチャーで、子どもたちを引きつける。
20分ほどの練習の後、他のスクールでは見られない光景が。エミルコーチがコートの真ん中に座って、何やらカードを出して説明を始めたのだ。「数」「国旗」「動物」「色」のカードがそれぞれ何枚も用意されている。今日はこのカードを使ったドリブルゲーム。子どもたちは3つのグループに分けられた。チーム戦が行われるようだ。
コートにはすでにたくさんのカードが置いてある。千本コーチが”Animal!”と叫ぶと、各チームから1人が飛び出し、ドリブルをしながら動物のカードをゲット。たくさんカードを取ったチームが勝ちというわけだ。子どもたちは、指示が変わるごとに、「Numberだよ!」と仲間に声をかける。どの子どもたちも、より多くのカードを取ろうと必死だ。
カードを取った後は、コーチからの質問タイムが。
“What animal do you have?”
“How many cards?”
答えに迷うと、コーチが“I have ……”と答えを促す。そして子どもたちどうしで、質問をし合った後、千本先生の“Team one is the winner!”のかけ声でこのアクティビティは終了した。気がつくと、不安そうだった女の子も、笑顔でピョンピョン飛び跳ねながら、コーチの横に集合していた。
ジェスチャーで初心者にも分かるように 千本コーチ
小学生クラスの終了後、1時間声を張り上げ続けた千本コーチに話を聞いた。
-小学生クラスの特徴は?
「小学生クラスには、サッカーが好きな子も多いため、練習そのものを充実させつつ、そこに英語を入れこまないと子どもが退屈するんです。何が一番難しいかといえば、簡単な英語を使わないと、指示を理解してもらえないこと。簡単な単語でシンプルに、繰り返し説明する。だんだん『もっとジェスチャーをいれないと』ということもわかってきました」
-子どもたち、スムーズに指示に従っていますね。
「子どもたちの理解力もすごく上がってきました。例えば、ゴールをしたときには、”Well done!” “That’s right!”、ディフェンスを頑張った子には”Nice defense!” ” Nice tackle!” などと声をかけるのですが、言っていることが分からなくても状況から『あ、褒められているんだ』というのがわかってくれる。英語と状況が一緒になっているので、子どもも推測できるようです。そして、発言しようとする子もでてきて、僕らとしてはとてもうれしいです」
-どんなフィードバックがありましたか?
「子どもたちは、ただただ『楽しい!』と。英語とサッカーを楽しみながら学んで、そして伸びているのが見ていて分かります。実際、僕も楽しい(笑)。お兄ちゃんみたく接してくれて、いじられたりしてますが。多くの親御さんは、『サッカーを入り口にしたら、英語を続けられるかも』という期待があります。ですから、特に小学生クラスでは、もう少し英語のレベルアップを計っていけたらなと思っています」
「僕もクラスが楽しい!」エミルコーチ
日本人の子どもを教えることに難しさはないのだろうか?
「大切なのは、子どもたちの興味を維持すること。楽しませ続けることです。特に小さい子は、ママやパパのそばを離れて何かをするのが初めて、という場合もありますから。また、暑い日とかね、集中力がなくなっちゃう(笑)。いかに楽しませ続けられるかが、飽きさせないかが大切なんです」
-クラスによって、気をつけることに違いはある?
「クラスによって全然コーチングスタイルは違います。でも、どのクラスもすごく楽しい! 小さい子は、とにかく楽しいこと、ボールに慣れることを大切にしています。サッカーが好きになってほしいからね。小学生クラスでは、もっと英語が学べるようにと考えています。みんな最近、僕たちの言っていることが分かるようになってきたから、どんどん話すようにしていきたい」
-みんなのびのびと英語を学んでいますね。
「男の子は特に、身体を動かしていた方が学べる子が多いのかな。記憶と体験が結びつくのだと思う。僕自身も子どもの頃、教室で座っているより、早く外に出て遊びたかった。身体を動かしながらの『アクティブラーニング』は楽しいし、脳もリフレッシュすると思うよ。イヤイヤ通っている子はいない。楽しいから、来てくれている。僕も子どもとサッカーをして、子どもたちの笑顔をみられるのがとてもうれしい」
最初の英語との出会いがサッカーを通じてというのは、すごくラッキーなことではないだろうか。外国人を見るだけで臆してしまう子(大人だって!)がいる中で、サッカーを通じて自然とネイティブとも関わりあうことができる。それはその人が、子どもにとって大好きなコーチだからだ。
みんなの夢は
最後に、みんなの夢を聞いてみた。
「サッカー選手!」
「僕もサッカー選手! ヴェルディの後、レアルに行く」
「トライアスリート!」
「獣医!」
では、葵君は?
「漫画家か、科学者!」
子どもたちの夢は、さまざま。サッカー選手だけでなく、いろいろ夢を持った子が、楽しみながら英語を学べるインターナショナルサッカースクール。豊洲校、千駄ヶ谷校、信濃町校、森下校など、2018年6月時点で18校がオープンしている。
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取材・文/黒坂真由子
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