エンジニアは英語をどれだけ勉強すべき?気になる「本音」を聞いてみた。

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エンジニアである読者の皆さんは、ことあるごとに「英語を学ばないといけない」というどこか脅しにも似た話題に触れているのではないでしょうか。しかし、なにを、どうやって、どのくらい学べばいいのか、明確な答えを持っている人は多くありません。
そこで今回はCommon Lispというプログラミング言語の若手エース、深町英太郎氏に寄稿文を依頼し、エンジニアならではの英語との接点や、学習の動機付けについて、本音をまじえて語っていただきました。

深町英太郎さん寄稿文

2015年の春、私はロンドンの郊外にあるゴールドスミス・カレッジのロビーでMacBookの画面を睨んでいました。奥の講堂ではLispのカンファレンス「European Lisp Symposium (ELS) 」が行われている最中。本来であれば私もその場に参加しているべきなのですが、自分の発表がもう1時間後に迫っている中で悠長に他人の話を聴けるほど肝が座っていませんでした。年に一度のこの集まりにはヨーロッパ中のLispファンがかけつけます。共通言語は英語。私の発表も英語が期待されているのです。

英語で発表するのはこれが初めてではありませんでした。2012年に京都で開催された「International Lisp Conference (ILC)」で一度、やはり自分のCommon Lispのプロダクトについて紹介したことがあります。その結果は思い返せば惨憺たるものでした。”L”と”R”の発音もちゃんとできておらず、故に自分のプロダクト名が正しく発音できないという不手際さ。20分枠のところを早口で10分で話し終わり、質問もなく壇上を逃げるように降りたのを覚えています。

それから3年。今回発表するプロダクトには自信がありました。プレゼンの内容も、一度は国内で日本語で行ったいくつかの発表を総括したものであり、概ね好評をいただいていた。問題は、それが通じるか否かです。

会場の入口が騒がしくなり、人がぞろぞろとロビーに出てきました。Coffee Breakです。この時間のために用意されたコーヒーポットとクッキーに皆が群がり、思い思いの相手と立ち話をします。この休憩が終わった次のセッションが私の出番。私は準備をするため、入れ替わりにすり抜けるようにして会場に入りました。

発表の30分間はとにかく必死で、長かったとも短かったとも言えません。

いくつかの質疑応答を終え、休憩を挟まずに続いて発表があるので席に戻りました。前のほうの席が埋まっていたので、妻とは離れた講堂の上の方の席に座ります。発表が終わったことの安堵よりも、ちゃんと伝わったかどうかが気がかりでした。

発表が3件ほど終わり、LT(ライトニングトーク)も終わったときにはどっと疲れていました。妻と合流してさっと帰ろうかと思っていると、すぐに3、4人の人間が私を囲んで話かけてきました。

「Fukamachi。素晴らしい発表をありがとう」

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英語で情報発信をするということ

完璧とは程遠いながらもとりあえず終えたELSでのプレゼンは、私が普段行っているオープンソース活動の一部です。

この記事を読んでいる人のほとんどは私のことを知らないでしょうが、私は狭いCommon Lispコミュニティでは多くのライブラリを公開していることでそれなりに知名度があります。特に日本のコミュニティでは強い影響力があるようで、私が作ったというだけでStarをくれたり、それなりに使ってくれる人がいるのです。

けれども、そういった行為は多分に情緒的なもの。顔なじみだから使ってみようだとか、日本人だから使ってみるか、という感情もなくはないでしょう。だから、そのプロダクトが本当に良くて使われるのかわからない。

その点、日本以外では私の影響力も小さいです。それを敢えて、不自然な英語のドキュメントしかない、遠い島国の人間が作ったものを使うという決断には心理的障壁があることでしょう。日本だけでなく世界中の人に自分のプロダクトを使ってもらう。それはプロダクトが本当に使うに足るものだと認められたことの証左でもあります。

英語を学ぶ理由

こうして英語での情報発信に積極的だからか、私は英語が得意なのだろうと思われることもありますが、決してそうでもありません。英語の記事は辞書を引きながらでないと読めないし、READMEの間違ってる英語を直したよ、というPull Requestもよくもらいます。日常会話くらいは困らないかと言うわけでもなく、海外旅行で訪れたスーパーのレジで何を訊かれているのかわからなくてあたふたすることも。

けれどあまり気負わず、それでいいんだ、と諦められるような楽天性があるのが、ここまでやってこられた理由かもしれません。

読者が私のようなプログラマなら、時間を惜しんでずっとプログラムを書いていたいことでしょう。英語の教科書を開くより、Emacsを開いて時間を忘れてプログラミングに打ち込みたいですよね。

だけどそういう訳にもいかない。ライブラリの使い方を知るために英語のドキュメントを読まなければならない。開発状況を確認するためにメーリングリストを覗かなければならない。バグを見つけて報告するためには英語でレポートを書かなければいけない。自分のパッチを取り込んでもらうためには英語で議論して相手を納得させなければならない。

そうして、不器用ながらも必要に応じて英語を学んできて、結果ちょっとずつでも上達してきたようだ、というのが現状です。

03

まとめ

はてなブックマークには定期的に「英語ができないプログラマは生き残れない」だとか、逆に「プログラミングに英語は必要ない」とか煽り記事が上がってきます。けれどもどれもどうもピンと来ない。「お前らもシリコンバレーで働きたいだろ? だったら英語やれ」みたいな論調で言われても共感できません。日本好きだし。

重要なのはどれくらい英語が必要かじゃないでしょうか。やりたいことが情報を得ることなのか、それとも情報を発信したいのかでも求められるスキルもレベルも違います。

私にとっては自分のプロダクトを世界中の人に使ってもらうというのが強い動機です。動機付けさえしっかりしていれば、時間はかかってもそれなりに上達するものかな、と自分の少ない経験から思います。

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深町英太郎 / Eitaro Fukamachi

【略歴】
1987年福岡県生まれ。大学生のときに手嶋屋でオープンソース開発に触れる。その後、はてなに中途入社しWebアプリケーション開発に従事。現在はサムライトに勤務する。活発にオープンソース活動を行い、ClackやCaveman2、Wooなどを中心にCommon Lispのライブラリを多数開発。

【リンク】
Blog: http://blog.8arrow.org
GitHub: https://github.com/fukamachi
Twitter: https://twitter.com/nitro_idiot
Portfolio: http://8arrow.org

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