グローバル人材という言葉が叫ばれるようになって早10年。この間に多くの企業が「グローバル人材育成」の為の企業内英語研修を模索し、それは年々変貌を遂げつつあります。
「真のグローバル人材とは何か」「そのために今企業はどのような英語研修を採用しているのか」ということを知ることは、すべての働くビジネスパーソンのキャリア形成にとって必要な知識でしょう。
今回はそんな真のグローバル人材について、昨今企業で導入されている英語研修という視点からお伝えしてみたいと思います。
昔は全員に平等な「語学研修」だった企業内研修
2010年頃から今の「グローバル人材育成」という言葉が頻繁に叫ばれはじめましたが、それ以前にも英語研修は多くの企業で存在しました。
2010年以前の英語研修として目立つのは、「社員全員への平等な英語教育」というもの。1996年に富士通が社員3万人全員のTOEIC受験を発表したという出来事に象徴されるように、研修費を平等に社員に振り分けるという時代がそこにありました。
また1997年には(株)コマツがTOEICを人事の昇進要件に組み込むという施策を発表。1990年代後半移行、TOEICを人事施策と結びつける企業が増加し、TOEICの受験者数もこの頃から増加の一途をたどってきました。
参照:TOEIC受験者数推移
出典:TOEIC Program DATA & ANALYSIS 2019
この頃の英語研修は、あくまでTOEICのような「語学力」を伸ばすための研修であって、純粋に「英語が理解できるか」「英語が話せるか」といった視点で研修計画が進められていた時代でした。
グローバル人材育成−過渡期の10年
2010年に(株)ファーストリテイリング(ユニクロ)や楽天が社内の英語公用語化を発表してから日本中の企業が「グローバル人材育成研修」の必然性を感じはじめました。
新聞を開くと毎日「グローバル」「グローバル化」「グローバル人材」の文字ばかり。この頃は、これまでの流れと同様に、「英語力の強化」としてTOEICのスコアを評価基準に用いた企業が増えています。
しかしその後すぐに、「TOEICの点数が高い人材を雇っても、英語を使って仕事ができるとは限らない」という声が企業から漏れ聞こえてくるようになりました。
グローバル人材とは、「英語が話せる人」ではない
TOEICは、英語のリスニングやリーディングの力は証明してくれます。またTOEIC900点台などになると、ある程度のスピーキング力も証明してくれるかもしれません。
しかしTOEIC900点の方が英語を使って「効果的なプレゼンができるか」「交渉を成功させられるか」「会議で発言ができるか」ということとなると、話が全く別だということに、企業は気づき始めました。
英語が話せても会議で全く発言できなかったり、用意した資料をペラペラと英語で読み上げるのみのプレゼンを行う社員も少なからず存在したのです。
時代はダイバーシティーへ
2010年以降、グローバル人材育成とともに企業が意識しはじめた「多様性(ダイバーシティ)」。国際化社会で生き残る為、海外企業のM&Aが促進され、社内の多国籍化が推し進められました。
「自分の席の両隣はインド人と中国人」というように、色々な文化的背景を持つ同僚と働く人が増え、異文化を理解しながらうまく仕事をこなしていくコミュニケーション力も必要となりました。
「会議で多国籍な社員たちが好き放題に発言するのをうまくまとめられない」といった声や、「文化の異なる社員たちを引っ張っていく自信がない」といった悩みを持つ管理職も増えました。
英語研修費の低予算化
同時に、2008年のリーマンショック以降、研修費が大幅に削減され、その水準がなかなか元に戻らないという時代が続いてきました。時代はグローバル化の波の真っ只中にありながら、そこに投資できる予算が少ないという事態がいまだ続いているのが現状です。
現代の主流の英語研修スタイル
こうした過渡期を経て、グローバル人材育成のために現在主流となりつつある英語研修のスタイルが下記の2つです。
2階建て研修
1つ目は2階建て研修とよばれるスタイルです。下記の図のように、英語の「語学力」を基準に、2層にレベル分けをし、下層部にはこれまでのような「語学研修」を行って、上層部へのレベルアップを狙います。
一方、(企業によって基準は異なりますが、仮に)TOEICスコアで720点以上の語学力をもつ上層部には、「グローバル・コミュニケーションスキル研修」を行います。この2層に分けた「2階建て研修」が特に2010年前半に特に人気のスタイルで、現在も引き続き行っている企業は多いと言えるでしょう。
▼ちなみに「グローバル・コミュニケーションスキル研修」とは…
・英語でプレゼンテーションを実戦的に学ぶ
・英語で会議のファシリテーションを実戦的に学ぶ
・英語で交渉を実戦的に学ぶ
などの実践型スキル研修です。講師もネイティブを採用し、英語を使いながら効果的なビジネススキルを体系的に学んでいくという研修が多く採用されてきています。まさにグローバル人材に必須のスキルと言えるでしょう。
一点集中型研修
2つ目の研修は、一点集中型の英語研修です。先程も述べた通り、研修費が大幅削減され、全員に研修コストをかけることができないという状態は現在でも続いています。
そこで下記の図のように、ほんの一握りの社内の優秀な人材や管理職候補者に、研修コストを一点投資するというスタイルが増えています。
優秀な人材や管理職候補者などの選抜者は、そもそも英語力が高いことが前提で選ばれる事が多く、こういった人々には従来の英語の語学研修は行われません。代わりに、
- グローバル・コミュニケーションスキル研修
- 異文化理解研修
- リベラルアーツ研修
- MBA海外留学
といった真のグローバル人材育成に必要な研修が一点集中型で投入されます。
▼ちなみに、異文化理解研修とは…
国に応じて文化が異なる中で、その文化の違いがビジネスの障壁とならないように、相手の国の考え方や文化的背景、行動やコミュニケーションの傾向等を知り、ビジネスの場で応用させる研修です。
またそのためには「自分の国の普通」が世界ではいかに特異であるかを学ぶことも一つのテーマとなります。
▼リベラルアーツ研修とは…
様々な分野の教養や学問を学ぶ研修です。ビジネスの場でいえば、相手国の文化、歴史、宗教、政治、経済などを知っておくことで交渉ごとやコミュニケーションがプラスに働くでしょう。また美術や哲学などといった広い意味での教養は、世界のトップを相手にする上で日本人にはかけている部分と言われています
英語力がない場合はどうすればいいのか
一点集中型研修は、「英語が話せない」「聞けない」といった基礎英語力がない社員は対象とならないことが多く、仮に「日本語では」仕事がデキる人であっても、「英語ができないために」研修の恩恵を受けることはできません。
しかし実はこの「一点集中型研修」のほうが、「2階建て研修」よりも主流になりつつあるのも事実です。それでは「英語が話せない人」はどうすればいいのでしょうか。
英語力は個人で上げる
残念ながら今の企業は、「個人の努力である程度までは英語力を上げてほしい」と考えているのが正直なところです。企業がお金をかけるのは「すでに英語力が高い人材」と割り切り始めているのです。
また「英語力」という点では、特にこの10年の間に英語力の必然性が日本中で叫ばれており、世の中の親はこぞって子供に英語を習わせ、2018年からは小学校での英語必修化も一部自治体で始まりました。
「英語ネイティブ」とは言わないまでも、「ある程度は英語が話せる」という世代が新社員として入社してくるのもそう遠くない未来です。彼らと対等に仕事をこなすためには、彼らと同じレベルまで自分で英語力をあげておくということが必要になってくるでしょう。
企業が用意する制度をうまく使おう
「個人で」とはいえ、企業もモチベーションの高い人材に対しては何らかの投資を行いたいと考えています。自分には英語力が足りないと感じる場合は、企業が用意する福利厚生や自己啓発支援制度などで、割引や補助を受けつつ、オンライン英会話などを活用して英語力を伸ばしましょう。
オンライン英会話なら発話の量も十分とれますし、なんといっても経済的です。自己負担分があるとはいえ、十分現実的な英語学習法といえるでしょう。
まとめ
英語研修と一言でいっても、時代とともに大きな変遷を遂げています。今、日本企業が渇望しているグローバル人材になるためには、「英語が話せる」だけでは足りないのが実情です。
しかし一方でグローバル人材を育てようとする現在の英語研修は、基礎英語力があって初めて成り立つもの。自分自身が研修の恩恵を受けるためにも、ぜひ基礎英語力を身につけておきましょうね。
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